ファッション業界に元気を!株式会社OTS代表取締役社長 田中優一郎氏 × NEW ENERGYコンセプター 渡邊睦 対談
1989年の創業より、ファッション業界の物流を担ってきた会社OTS。
自らを「ブランドサポーター」と称し、「ファッション業界に元気を!」の信念で、革新的な事業展開を手掛けるOTSが描く未来とは?OTS社が新たに投入した最新鋭のデジタルプリンターでタッグを果たすNEW ENERGY。コンセプター・渡邊睦が、OTS田中優一郎社長のENERGY(エナジー)に迫る。
渡邊)では初めに、OTS社が描いて来たビジョンをお伺いしたいです。
田中優一郎氏) ※以下、敬称略
私は2代目で、10年ほど現場を経験したのち、16年前に社長に就任しました。入社当時、ファッション業界は隆盛を極めていましたが、傍らでは、在庫過多などにより、闇の部分が表面化してきた時代でもありました。当時は勢いで伸長していく会社が多く、あまり長期的な視点を持てず、結果倒産に至る状況も多く見受けられました。
私は、ファッション業界で物流に携わり、ファッション業界に育ててもらった自負があります。その反面で、業界の闇といえるようなところも目の当たりにしてきた感覚です。このような経験から、ファッション業界に物流として何が出来るか?を考え続けてきました。その中で、解決への具体的な手段として、本業の物流とは別の事業として「カイテン倉庫」という新しいサービスの展開に至りました。
私は「ファッション業界に元気になってほしい」という思いが一番です。ファッションは、関わる人が精神的にも物理的にも豊かさを享受できるものだと信じています。
ファッションが持つ本来のクリエイティビティを自由に表現できる、そんな業界になって欲しい、心からそう願っています。
渡邊)なるほど、まさに「物流」から見て来たファッション業界の表と裏ですね。
田中)また、これまで多くの企業が事業や経営規模を大きくしていく中で、本来のブランド価値を落として、事業の継続が難しくなっていく事例を散見し、この業界には適正な規模感があるように感じています。
そんな経験から、小規模のブランドや会社のビジネス、ここを安定させる為のお手伝いをしたいと、と考えるようになりました。我々の物流・倉庫事業においては、非効率とご指摘を受けることもありますが、小規模ブランドを手掛ける理由はそこにあります。
ブランドの価値を棄損してはいけない
渡邊)さきほどのお話に出た「カイテン倉庫」のサービスに関して詳しく伺えますか?
田中)もともと私が入社したころ、倒産する企業の話を耳にしたり、我々に在庫を預けて頂いていた会社が倒産し、その後在庫が残るという状況経験しました。実は、私が入社してすぐに、10万点の在庫が残り、これを一年近くかけて処理しなければならない洗礼も受けました。そういう経験から、倒産に至る前に手を打てないか?という発想で始めたのが「カイテン倉庫」です。ブランド価値を棄損せず、過剰な在庫を定期的に処理する方法を提案し、健全に在庫が「回転していくこと」を目指しています。
渡邊)「ファッション産業を守る」という事に重きを置いている印象ですね。倒産するブランドなどが増えると、ファッション産業自体が落ち込んでいく。ここを防ぐ、もしくはチューニングしていく、というイメージですね。
田中)このカイテン倉庫を実施する上で、お預かりしたブランドの価値を棄損しない、ということを一番に考えています。
物流・倉庫業を営む我々が手掛ける、カイテン倉庫を理解してもらうには、実は非常に苦労しました。しかし、ここが売り上げを上げて行くことはあまり重要視していません。ここは将来的に必要とされなくなるのが一番だと思っています。業界全体から見ると小さなアクションかも知れませんが、私は常に、ファッション業界全体が健全に機能し、「元気なファッション業界」である事を目指していきたい、そう考えています。
渡邊)しかし、ファッション産業全体を見て動くこと、そこは経営者として、とても勇気がいる行動だと思います。
かつて、前職の社長の信念として良く耳にしたのが、「目先の利益に捕らわれず、ファッション産業‘全体’をどう押し上げるか」を考えるという事でした。ただ、現場に至っては、どうしても自社の利益や、競合他社との差別化に捕らわれてしまう、その状況から抜け出そうにも抜けられない現状がありました。今となっては、業界全体を底上げしていくという視点は、私たちの活動でも大きな軸ととらえていますが、当時は答えを見いだせなかった苦い記憶があります。
田中)現在は、モノを捨てることに対する意識が社会通念的に変化して来ましたが、カイテン倉庫を始める当初は、頭ごなしに、「物流の会社が取り組む領域ではない」、というご指摘を頂くこともありました。ここへの理解が、最初のハードルでしたね。お角違いといわれたらそれまでですが、私はそもそも物流だけを切り取って機能させることができるとは思っていません。なので、会社のビジョンとしても「ファッション業界全体の健全化を見ている」という方があっているかも知れません。
渡邊)物流業界の異端児的な評価を受けたんですね(笑)
田中)そうかも知れません(笑)
渡邊)今までのお話で、非常に田中社長の気概を感じます。通常の「物流・倉庫業」の概念に留まらない、発想力と実行力で、ファッション業界の底上げを本気で考えていらっしゃる、と。
田中)会社経営の安定収益として、物流・倉庫業に取り組んではいますが、背景にファッション産業に元気を取り戻すことを目指しているので、物流から見えてくる問題点の解決に向き合う、そんな事業展開が必要だと思っています。私たちはプラットフォームを用意し、その機能を活用しつつ、クリエイターたちがのびのびと表現する事ができる、そんな構造を目指してお手伝いをしていきたい、そう考えています。
「ブランドビジネスサポーター」を自負する会社の「幸せの経営」
渡邊)ファッション業界の構造を見据えた活動が、今後どのように進化していくか、非常に楽しみです。
さて、最新鋭のデジタルプリンターを導入し、今後の展開予測や未来予想図はありますか?
田中)実は、明確には描いてないんです(笑)
我々が事業のミッションとしている「ブランドビジネスサポーター」という概念が軸にあり、これが我々の手掛ける、物流、リペア、デジタルプリントの導入、全てに紐づいています。合わせて経営ヴィジョンとして「しあわせの経営」というものも掲げています。シンプルですが、社内外関わる人全てが、幸せや豊かさを感じられることを目指しています。
今回のデジタルプリンターの導入には、色々なご縁が重なってたどり着いたと感じています。目的として「何かを作りたい」という視点から導入したわけではありません。これまで取り組んできた事業の経験から、業界の課題やニーズを色んな角度から知ってしまった、そしていつの間にかここの問題解決に着手することになった、というのが正しい表現なのかも知れません。
結果的には我々の掲げる「ブランドビジネスサポーター」という軸にもはまっているので、やってみよう!と。しかし、物流は出来上がった「モノ」に対して機能するものですが、今回の取り組みは、機能として、川上から川下まで一気に飛んだイメージで、チャレンジングな領域に着手しているのかも知れませんね(笑)。
やはり、面白くない業界になってほしくない、その想いが強いですから!ただ、それだけです。
渡邊)はい、本当チャレンジングだと思います(笑)
ファッションに夢を、そして豊かさを、みたいな確固とした御社の理念を感じます。今後我々は、個性や感じることを育てていく、その機会を提供することが大事だな、と思っているのですが、その手段として「ファッション」の果たす役目は大きいと思います。田中社長のような志の方がいらっしゃること、その行動力も含めて、とても嬉しいし、励みになります。本当にありがとうございます。
田中)そう言って頂くと、これからのビジネスではありますが、やる意義を感じられます。
私はある時から、中身を薄めないビジネス展開を意識するようになりました。売り上げ規模や成長率に執着すると、現場に無理が生じて経営ビジョンである「しあわせの経営」や「働く人たちの喜び」を犠牲にしてしまう面がある事に気が付きました。我々は人材が軸になるサービスを展開しているので、「働く人の喜び」を確保することがとても重要だと思っています。なので、売り上げの効率は一旦外し、小規模倉庫を複数で運営しています。個人個人を認識しあえる少人数の組織であることを目指しているのです。これは企業運営にも共通していて、それぞれの事業の独立性や強味を磨いていく、ということは非常に大事だと考えます。冒頭でも触れましたが、ファッションの世界にも共通するのではないでしょうか?
渡邊)確かに営利を追求することで大量に生産された洋服では、個性や面白み、みたいなものは感じ辛いですよね。お話を伺っていると、田中社長がコミュニティーを多角的に見ているところ、人を大事に思う心や温かさが滲み出ていますね。話は変わりますが、何か趣味はありますか?
田中)ゴルフやときどきテニスを嗜みます。最近は、映画やドラマを積極的に見るようにもしています。芸術的な趣味を持ってないので、何か感性を刺激するものに触れたい、そういう思いからですね(笑)。
渡邊)芸術と距離があるように仰いましたが、田中社長の仕事の取組み方自体、非常にクリエイティビティを感じます。答えを導きだし難いであろう会社や事業経営ですが、田中社長は感覚を頼りに会社を創造しているように感じます。とてもクリエイティブです!
田中)確かに、芸術と経営は似ているように感じています。なぜなら、経営はロジックだけで積み上げても、ロジック通りの答えは出ない。その不確定要素の大きな部分が人だと思うのですが、不確定なものでありながら、最もクリエイィブな存在が「人」であるとも思います。なので、成功パターンの模倣は通用しない。結局、自分たちの経験を血や肉にして生み出していく事、ここが重要だと実感しています。その為に、「人」を軸に企業を作っていくと、非常にクリエイティブなことだな、とも思います。
この発想から、今回のプリンター導入への道筋が出来てきたと考えると、今後、いずれ意味がある、かみ合ってくるのかな、と思っています。
渡邊)うん、面白いですね。人間味がある、クリエイティブな会社だな、と改めて感じました。今回の新規事業も、なかなかチャレンジングだと思っていたんですが、何かが見えていらっしゃるんだろうな、と感じます。
田中)今回のプリンターとか、これまでの事業の在り方だとか、何らかの形で生きていくのではないか、そう信じています。
渡邊)私もファッションの流れが変わってきた潮目で、イベントや展示会の在り方に関して悩んだ時がありました。しかし今はシンプルに、コミュニティーの存在、ふれあいに価値を見出す人たちに集まってほしい、その人たちに高揚感を感じて頂く場にしたい、と思っています。今回のOTSさんとの取り組みは、間違いなくリアルの場のポテンシャルが上がる大事な要素になっているし、創っていく過程からわくわくしています。ありがとうございました。
田中)全ての始まりは、人とのご縁・えにし、だと思っています。これからも末永く、一緒にわくわくしましょう。よろしくお願いします。