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2023.07.11

デザインという付加価値で古着を循環させる Reclothes Cup

8人介せば世界はつながる

フリーライターとして伝統芸能、美術工芸、医療、教育、料理、暮らし、演劇、就職、結婚、ファッションなど、多岐にわたるジャンルで取材、執筆活動をしている湊屋 一子さんによる連載企画「8人介せば世界はつながる」。
4半世紀を超えるキャリアの中で、最年少は10歳・最年長は95歳、のべ3000人以上にインタビューをしてきた湊屋さんが、今気になる人に会って話を聞き、ジャンルをまたいでつなげていきます。


 子どものころ、母が、服をそのまま捨てるところを見たことがなかった。
 木綿や麻、絹なら手のひら大に切って、靴の空き箱に入れておき、靴を磨いたり、フライパンに残った油を吸わせて捨てたり、掃除に使ったりする。
 ボタンは全部外して、同じボタンはまとめて穴に糸を通してバラバラにならないようにしてから、お菓子の空き缶に入れる。シャツやコートのボタンをなくしたら、この缶から似たような見た目、似たようなサイズのボタンを探して付け替えたり、母の作る服に再利用されたりする。
 今のように100均で雑巾が買える時代ではなかったし、しゃれたボタンはけっこう高価だったのだ。

 さて、時代は令和。着なくなった服はそのまま捨てるのではなく、売りに出すものになった。ブランド品だけ買い取ってくれる店、とりあえず何でも買い取ってくれる店、委託販売してくれる店に持ち込んでもいいし、自分でフリーマーケットに出店したり、メルカリやヤフオクなどネットで売ったりしてもいい。

 そこでブックオフだ。ご存じ、本を買い取って売ってくれる一大チェーン店である。実は服も買い取ってくれる、というのは、本の買い取りほどには知られていないが、最近は本を売っているその隣で服も売っている店舗が増えており、それを見て「へ~、服も買い取ってくれるんだ」と気づいた人もいるだろう。

 こうした買い取りに服を持ち込んだことがある人ならわかると思うが、意外と(というか案の定というか)高値はつかない。それどころか値が付く服のほうが少ないなんてことも多い。買い取り店にしてみれば、人が手放す理由がある服を引き取るのだから、リスクは大きい。むろん「妥当な値段をつければまた買う人がいる」とにらんだものを買い取っているのではあるが、それが全部その読み通り売れていくわけではないのは当たり前。売れないものはたまっていく。それをいつまでも保管していては、倉庫の家賃がかさむだけなので、適当な時期に廃棄処分にせざるを得ない。


「これが嫌だったんですよ。なんか活かす方法はないかって、ずっと思っていました」
 ブックオフコーポレーション株式会社 リクロースカップ事務局長の山田 美有さん。西日本の複数の店舗のアパレル売場を監督する立場にあった彼女は、店舗で働く服飾専門学校生の話から、古着を学生たちに“素材”として活かしてもらうというアイディアを得た。会社の許可を得て、廃棄に回る古着を専門学校に提供。これをきっかけに学生や教師たちと話す機会が増えていった。
 「その中で、いつか古着を使った作品でファッションショーやコンテストをやってみたら面白いだろうね、という話も出ていて。私もいつかそんな風になったらいいなと思うようになりました」

 漠然とした夢物語が、意外に早く実現することになったのは、コロナ禍がきっかけだった。
 「つながりのあった福岡の専門学校の先生からの紹介で、大阪の専門学校で行われるはずだった、学生の作品の発表が頓挫してしまっているという話が持ち込まれたんです。私たちもいつかショーやコンテストをやろうと思っていましたし、その前段階と考えて、この頓挫した発表会をうちが協力して実現しましょうという話になったんです」

 服を廃棄したくないという気持ちからかかわり始めた学生への支援、さらに学生の作品発表会を引き受けるというのは、生中なことではない。会社を説得するのも、実際に事業の一環として回していくのも大変だったはず。だが山田さんはあっけらかんと「まあ、流れに乗ってきたというか……」と笑う。

 「もともと私はそんなに服に興味というか、こだわりがある方じゃなかったんです。衣類の販売に携わるようになったのも、会社の人事の結果そこに配置されたから。私は本来モノを売ることが好きで、この会社に入社したんです。だから服も商材の一つとしてとらえていました。その中で服飾専門学校生に出会って、廃棄ではなく活かす方法を見つけて、また、持ち込まれた話を受けてファッションショーをやることになって……私にとってはせっかくそういう流れが目の前に来たのだから、これに乗って、やれることをやってみよう!という気持ちでした」

仕事㈰

 この、よそから引き継ぐ形でのファッションショーを経験し、山田さんは自分たちがやるべきはコンテストであり、いい作品をしっかり販売につなげたいと考えるようになる。
 「自社でコンテストを主催するにあたっては、上司とともに構想を練って、テーマ性などもはっきり決めて企画書を作成しました」
今までの事業はブックオフの西日本だけで動かしていたが、コンテストはやはり全国の服飾を学ぶ人たちを巻き込みたい。そこで東京の本部を説得し、コンテスト開催に乗り出す。
 「実はこの時、私は産休・育休中で、その中でコンテストとショーの準備を進めていました。私の上司が本部の説得をしてくれたおかげで許可が下りて、いよいよ実現ということになったんです」

 コンテストには二部門あり、一つは販売部門、もう一つはデザイン部門。販売部門は作品の販売を視野に入れ、コンセプトやターゲット、再現性を考えた作品を、デザイン部門はファッションの新しい可能性を感じさせる個性的な作品を募集する。どちらもテーマは自由。山田さんが心掛けているのは、参加者がのびのびと自由に創作できる場を用意することだ。
 「入賞作品は、弊社で販売を手掛けます。販売と言っても古着をもとに作るので、同じものをロットで何十枚と作るということではなく、受注生産で一枚ずつ作っていくという程度の販売量です。ですからデザインを今売れているものに寄せるとかそういう必要はなく、着やすさは考えつつ、でも『かっこいい!』と一目ぼれされるような服であることが大事なんです」

 コンテストの運営はすべて山田さんらブックオフ側で行い、学生はエントリーするだけ。条件はブックオフが用意する古着を素材として使うことで、必要があれば新しい材料を足すことも認められる。
 「でも『このワッペンがかっこいいからそれだけ使う』とか、『あれとこれとそれの一部ずつを使う』といった、廃棄部分が多いのはNGです。使い方はそれぞれに任せていますが、古着のもとの状態と残布になった状態の写真を添付してもらい、きちんとアップサイクルされているかどうかも審査の対象になります」

 コンテストの名は「Reclothes Cup」。2022年に第一回が開催され、福岡市博物館で行われた最終審査会には、400人近い観客を動員。一次審査を通過した学生50名が全国から集まった。

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「普通、こうした全国規模のコンテストなら最終審査会は東京でやりますよね。でもこのReclothes Cupは、地方でやるというのもコンセプトの一つなんです。一昔前に比べればだいぶ地方の状況も変わってきていますが、とにかく全部東京に集まりすぎてる。東京に行かなきゃだめだじゃなくて、地方にいたってこういうイベントがあって、地方発信でかっこいいものは作っていけるっていう風にしたいんです。審査員をお願いした方々にも『当たり前みたいに東京でやらないっていうのがいいね』って面白がっていただいて」

 2022年にはデザイン部門では3作品が、販売部門では5作品が入賞し、販売部門の入賞作品はブランド化し、ブックオフが受注販売を手掛けている。
 「販売する作品は、受賞者が作るのではなく、プロの縫製業者さんに発注しています。販売価格はその制作にかかる費用と、学生にデザイン料として支払う額を合わせたもの。弊社はこれで利益を出すという形にはなっていません」
 なんと! 販売手数料などもとっていない⁈
 「ブックオフはそもそも、モノをリユースという形で循環させ、モノの寿命を延ばすことを、事業の根幹としています。会社としては、この事業は採算ベースではなく、服をアップサイクルさせる、学生を応援する、モノづくりを応援することを目的にしています。とはいえ、私は今後、この事業を収益化していくつもりです。会社として長く続けていくためにも、そこはやはり大事だと思うので」

 山田さんの構想では、今後Reclothes Cupで賞を取った学生が世に出ていき、「あのデザイナーはReclothes Cupで入賞した人」という風になっていくことで、このコンテストに箔が付くようになるまでに少なくとも3~5年はかかるだろうとみている。
 「あえてブックオフとは違う客層を狙うために他の場所での販売をしたいと考えています。古着を買いに来るお客様の多くは、いいものを『安く』買いたいというお気持ちが強い。Reclothes Cupから生まれる作品は『安く』よりも『唯一無二』を探す、価格よりも自分が気に入るかどうかで服を選ぶお客様に選ばれるもの。従来の店舗に並べるのではなく、別の販路を模索しています」

 NEW ENERGY TOKYO (*1) への出展も、そうしたファッション感度の高い人々にReclothes Cupの作品を見てもらいたいという狙いがあった。
「ニューエナジーでは学生たちに販売に入ってもらって、服を見てくれる人から直接声を聴く機会を作りました。学校で服作りはおしえてもらえるけれど、それをどう販売するかはなかなか学ぶ機会がありません。感度の高い人たちに作品を見てもらって、いろいろアドバイスをもらって、すごくいい刺激になったみたいです」

(*1)NEW ENERGY TOKYO・・・ファッション/ライフスタイル/アートを中心とした合同展+マーケットイベント

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NEW ENERGY TOKYO 2023年2月展

 昨今、ネットの発達のおかげで、店舗を持たずにデザイナーがネットを介してユーザーに服を販売できるようになったが、集客や価格帯の問題など、様々な難しさがあり、いい作品を作っていれば売れるという簡単なものではない。
 「いい作品を作ることはもちろん大事なのですが、例えば販売価格帯を考えて、素材や工程をコントロールすることもすごく大事。でもそうしたことを教えてもらえる場がとても少ないと感じています」
 今後、Reclothes Cupを育てていくうえでも、山田さんはこうした販売のリアルを学生たちに伝えていきたいと考えている。
 「それは弊社の得意分野でもあります。会社だったらわからないことは先輩が教えてくれるし、上司に相談もできますが、学生は横のつながりはあるけれど、世代の違う、自分たちが今悩んでいるようなことを通ってきた、プロの先輩たちと接する機会がすごく少なくて、悩んで行き詰ってしまう。Reclothes Cupとしてニューエナジーのような外部イベントに出て行って、学生たちがかっこいいモノづくりをしている人たちと知り合う機会や、第一線で活躍している人たちの話を聞ける機会を作っていきたい。私自身、彼らの服に対する情熱に触れたり、服ができるまでの工程を知ったりするうちに、服に対する思いが変わりました。こうした支援事業は継続性が大事です。そのためにも収益を生む事業に育てるという目標は、そう遠くないうちに実現できるように努力します」

 現在は店舗管理から離れてReclothes Cup事業専任となった山田さん。ご本人は「流れに乗っただけ」というが、いやいやなかなかどうして、どう見ても自分から急流に飛び込んで大海原に漕ぎ出している。


プロフィール㈰ 1 3

山田 美有
ブックオフコーポレーション株式会社 リクロースカップ事務局長
https://reclothes-cup.jp/

2004年に札幌でアルバイトとしてブックオフに入社。
2007年よりアパレル部門で社員となり、札幌、関東の店舗で店長を経験。
その後、本部で現場改善の仕事に従事した後、スーパーバイザーとして加盟企業のアパレル事業拡大を担当。2017年より福岡にて西日本地区のアパレル店舗のマネージメントを担当後、現在のReclothes Cupを立ち上げた。
現在はReclothes事業の責任者として、Reclothes Cupの運営、ブランドReclothesのプロデュース、産学の連携を担当している。

SHERE
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