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2023.10.03

第97回 装苑賞『装苑賞』&『NEW ENERGY特別賞』W受賞! 上村 英太郎氏 × NEW ENERGY コンセプター渡邊 睦 対談 -前編

〈第97回装苑賞〉 公開審査会 2
第97回 装苑賞 公開審査会

 「若い才能を発見し、世に送り出す」の精神のもと、1956年に創設されたファッションコンテスト「装苑賞」。Blue Marbleはそのフィロソフィーに共感し、昨年より【NEW ENERGY特別賞】を設置し参画しています。本年度、第97回装苑賞において「装苑賞」と「NEW ENERGY特別賞」のダブル受賞という快挙を果たしたのは、弱冠22歳の上村英太郎氏。ここでは、NEW ENERGYのコンセプター兼クリエイティブディレクターである渡邊 睦が上村 英太郎氏を紐解いていきます。

*対談中の話者の敬称は省略させて頂きます。


―ファッションを楽しむ事で救われた高校時代―

渡邊)改めまして、装苑賞とNEW ENEGRY特別賞のダブル受賞、おめでとうございます。まずはここに辿り着くまでの上村さんの足跡をお伺いできますか?

上村)私はもともと医者を目指して、長崎の青雲高校という学校に入学し、その為の勉強に励んでいました。しかし、大学を受験するにあたり、とある国立大医学部の推薦枠を得たものの、最終試験でここの入学を逃してしまいました。当時私は、現役合格に拘っていたので、この時点で医者の道は断念したんです。周囲からは「もう一年頑張れば…」などと言われたり、両親からは断念する事を猛反対されたんですが、私の決心は揺らぐことはなくて(苦笑)。

渡邊)そうなの??それはなかなか想定外の経歴だね!そこから大きくファッションの世界に舵を切ったきっかけは?

上村)中学、高校と寮生活で、勉強中心のかなりストイックな生活を強いられていて、ゲームやTVなどの娯楽が制限さる中、唯一の楽しみがファッション誌を読むこと、好きな洋服を買って着る事だったんです。ある意味、ファッションを楽しむ事に救われた、という実体験があり、触手が伸びた感覚です。これまで勉強してきたものではなく、また一から勝負をしたい、という思いも相まって、ここでチャレンジする事を決断しました。

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(左)渡邊 睦 (右)上村 英太郎

ー 高校までは「考える事」を学び、専門学校時代は「行動する力」を身に着けた ー

渡邊) その後「香蘭ファッションデザイン専門学校」に入学する事になるんだよね?どうしてこの学校に?

上村) 当初は、文化服装学園に入りたいな、って漠然と思っていたんですが、私が動きだしたタイミングではすでに入学受付が終わっており、まだ入学が間に合うという理由から、香蘭に学校見学に行きました。すると、たまたま校長先生にお会いし、色々な意味で既成概念を覆され、即座に入学を決心しました。

渡邊) 校長の深田勝久さんは、私も良く知っています。確かに風貌含め、自由で個性的だよね(笑)
深田校長は、装苑賞の授賞式会場にいらっしゃっていたよね。ということは、入学からここまで、ずっと見守ってくれていた方という事ですね。在学中も近いところでの接点はあったのかな?

上村) はい、ありました。私は2学年のタイミングで学友会に関わりはじめ、3学年では学友会長を務めました。必然的に校長先生との接点が増えましたし、そもそも私の経歴が異色だった事もあり、気にかけてもらえていたと感じます。いっぱい怒られてもいましたが…(笑) 

渡邊) どんなことで怒られた?

上村) 学友会長としても、一人の生徒としても、ほんとに怒られていました。資料不足とか、納期ギリギリになるところとか…、決して成績優秀者だったわけではないので。

渡邊)そんな上村くんがどんな動機から学友会長になろうと思ったのかな?

上村)学校内で文化祭や、SNSの運用など、やりたい事がいっぱい思いついたんです。それを実現させるには、学友会長しかないかな、という感覚です。実際、慣習や前例を覆しながら、いろんな事に取り組みました。
 行動力を身につけるのは、なかなか難しい努力ですが、私は行動力こそが自分の持ち味で、それをフルに発揮できたと実感する学生時代でした。
 私にとって高校までは「考える事」を学び、専門学校時代は「行動する力」を身に着けた、と感じています。

渡邊)なるほどね。3年生の時には学友会長をやりながら、装苑賞の制作にも挑んだって事だよね?学生でありながら、学校という社会を動かす、そのしくみを学んだ感じだね。その行動力とエネルギーが凄い。
 では装苑賞に挑むきっかけや、その構想から制作の過程を聞かせてもらえますか?

上村)香蘭では、装苑賞へのエントリーは、3学年時にカリキュラムに組み込まれており、必然的なチャレンジでした。
エントリーが前提なので、学業の傍ら、常にコンセプトを模索していたんですが、ちょうど2学年後半から3学年に進級する頃に「相対性理論」という考え方の面白みにはまり、同じころクリストファー・ノーラン監督の映画「インター・ステラ(2014年公開)」に出会って、衝撃を受けました。この映画はSFファンタジーですが、重力の謎を解くというくだりは、物理学者の視点で科学的考証を元に描かれているので、当時はまっていた「相対性理論」への解釈の上でも感化されました。

 これを何らかの形で装苑賞への出品作品のコンセプトに置き換えたかったんですが、自分には「相対性理論」が壮大すぎて、自分ごとに置き換えるのは難しいと感じました。そういった考察を繰り返すうちに「相対性」なら解釈できるかもと思い、結果的にここの解釈を掘り下げて辿り着いたのが受賞作品のテーマ「第3の目」です。自分と他者、人間と他の生物など、相対するものの感じ方の違いを想像してみたんです。その時、人間には経験を通した三者三様の概念が存在するが、動物やその他の生き物は、ある統一した概念しか存在しない。その統一の概念をもって見えるものとは?という視点で、「虫の目」「鳥の目」「魚の目」を想定して装苑賞の3つの作品制作へと到達しました。

テーマ:「第3の目(だいさんのめ)」

コンセプト:私たちが目で見ている世界は、皆すべて同じではない。立場や人種、生物としての違いの数だけ物の見え方やとらえ方は違うと考えました。そこで、人の視野を限定させている象徴でもあるスーツをベースに、生き物の目にフォーカス。オリジナルプリント生地を使い、人間と虫、鳥、魚の目の違いを表しました。

〈第97回装苑賞〉装苑賞/NEW ENERGY特別賞 1 1
装苑賞/NEW ENERGY特別賞
上村英太郎「第3の目」
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ー 「考え」を転換する工程を大切にしたい ー

渡邊) そんな壮大なストーリーが潜んでいたんだね。長い時間をかけて、丁寧にコンセプトを考察したのが伝わります。着眼点はもちろん、思考を転換する力が上村くんの最大の魅力というか、能力のように感じます。フィジカルなもの、つまり作品本体だけでなく、コンセプトや作品を丁寧にブランディングする作業はまさにクリエイティブの余白の部分と感じています。この余白から生れる可能性を大いにはらんでいるのがファッションの醍醐味だと私は信じています。
 苦戦したポイントはありますか?

上村) 2学年の後半から考察を続けていたコンセプトを、制作に入る直前の3学年の夏ごろに、一度全てリセットした事です。その決断にはとても勇気が必要でした。時間もかけましたし、残された制作期間が限られている事にも焦りを感じましたし…。
 ただ私にとって、自身のコンセプトやメッセージは作品の核となると考えているので、この「考え」を転換する工程は大切にしたい。 私にとって服作りをする意味とは、洋服から何らかのメッセージを感じて欲しいと思っているので、きちんとメッセージを転換したものを創っていきたいと考えています。

上村さん提供写真1
制作過程の作品1
上村さん提供写真2
制作過程の作品2

渡邊)その考察力が上村くんの作品の骨格で、独創性に繋がっているんだね。
 今回の作品は、丁寧な縫製、そこに緻密に落とし込んだコンセプト、舞台上で映える演出力、がバランスよく配されていた事です。これに圧倒されました。その背景には、長い時間上村くんのが「考える」事を止めなかったからこそ、この作品が誕生した事が伝わりました。
 この先、どんな未来予想図を描いているの?

上村)私は本質をついた、無くてはならないと感じる事ができる洋服をつくりたいと思っています。私が服作りをするのは、何らかのメッセージを受け取ってほしい、何かを伝える為の行為と思っています。どんな表現者も同じだと思うのですが、作品は媒体で、私にとってはその媒体が洋服だったという感覚です。

なので、将来的に洋服のブランドを立ち上げたいと思っている反面、それが正解なのかは分からない、正直まだ答えが出ていません。

後編へ続く・・・


Profile

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渡邊睦
NEW ENERGY コンセプター兼 クリエイティブディレクター

2002 年に渡仏し、帰国後に 合同展 rooms を設立。 2009 年「繊研賞」、2011 年「毎日ファッション大賞 内 鯨岡阿美子賞」を受賞。 2022 年に独立し、Blue Marble を旗揚げ。

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上村英太郎(かみむら えいたろう)
装苑賞/NEW ENERGY特別賞 受賞

2001年生まれ、山口県出身。2020年、香蘭ファッションデザイン専門学校 ファッションデザイン専攻科入学。2023年、同専門学校卒業。


「若い才能を発見し、世に送り出す」 それが装苑賞の精神です。 装苑賞は、昭和 31 年に、日本で初めてのファッション界の新人賞として創設されました。この賞は 戦後いち早く、デザインの重要性と、新人デザイナーの才能の芽を育てることの必要性を感じた先達の知恵から生まれました。その後 60 年以上の永きにわたり、多くの審査員の先生方の御協力を得て97回で96名の受賞者を世に送り出してまいりました。


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