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2023.11.14

地場産業を盛り上げる「認証事業」を、実のあるものにした成功例・すみだモダン

(文:湊屋 一子)

東京西部には都心部にある会社へ通勤する人々のために、昭和40~50年ごろ新興住宅地がどんどん建設された。町ができた時に一斉に引っ越してきて、同じようなサイズの建売住宅が購入できる収入があり、同じようにローンが組める世代で、同じような勤め人家庭の町が出来上がる。そういう町で生まれ育った私は、あまり『我が町』という感覚が持てない。

 一方、長じて引っ越してきた工業地帯の町は、ちょうど大小の工場がたたまれて広い敷地が残り、そこに巨大マンションが建つという、町ががらりと変わる真っただ中。便利になる反面、町の顔はのっぺりしていく。それが良いことか悪いことかは、どの視点に立つかで変わるだろうが、とにもかくにも大変身であり、町に住む人の働き方が全く変わっていく。


 墨田区はかつて1万近くの工場があった、戦前戦後のものづくり日本を支えた、軽工業の町。それが今や工場数が2千を切る状況までになっているという。

 「ものづくりの町として、多種多様な産業が育ってきた墨田区を、もう一度取り戻そうということでスタートしたのが『すみだモダン(すみだ地域ブランド戦略)』でした」

 2008年から企画検討が始まったこの『すみだモダン』は、デザイナーと区内企業による新商品開発をはじめ、墨田区の企業発の製品の中からこれぞというものを認証商品として、バックアップしていくプロジェクト。墨田区役所の職員として、10年前後このプロジェクトにかかわってきた担当者もいる。
 「このプロジェクトを始める大きなきっかけは、スカイツリーのオープンだったんです。そこにショッピングモールが出来て、販売ブースを持つということになり、墨田区として何をそこに出すか? こうした大きなきっかけがあったことで、区としてもかなり力が入り、しっかりした予算が付いたんです。そこで、私たち区役所の人間や、地元の人たちだけでなく、世界レベルで活躍されているプロフェッショナルにも依頼して、一緒に『すみだモダン』とは、という芯の部分から作っていけたことが、すごく大きかったと思います」

ステートメント.001

 プロジェクト始動時から大手広告会社が入り、2009年に本格的にスタート。推進協議会の理事長には西武百貨店の黄金時代を築いた水野誠一さん、理事メンバーにはデザイン界・産業界の著名人が集まった。

 「水野さんはすみだモダンにかかわるにあたり、当時の区長に『このプロジェクトは少なくとも10年は続けてほしい』と談判なさいました」

 たしかに、こうした地域を盛り上げよう、地域の産品をアピールしようという取り組みで、初回は華々しかったが、だんだんしぼんで3年くらいたつとうやむやになってしまう、そうしたプロジェクトをいくつも見てきた。市区町村の取り組みのネックの一つは人事異動で、熱意ある人が必ずしもその担当部署にいるとは限らず、人事異動でたまたまそこに来た人が、業務だからとそれをやっているという場合も多い。さらにせっかく熱意ある人がプロジェクトを立ち上げても、人事異動の結果途中でいなくなってしまうこともあり、それが継続的な事業育成を難しくしている面もある。

 だからこそ、携わる人が変わってもプロジェクトが揺らがないように、土台作りが重要となる。

 「最初に、外部のプロフェッショナルの方々と『すみだモダンとは?』という基本をしっかり作れたことが、年月が経ってもブレずにこのプロジェクトを続けていくうえですごく重要な部分だったと感じています。良いものを作ることはもちろんですが、デザインの重要さを改めて理解したのも、こうした外部の方々との対話の中でです。ロゴマーク一つ作るにも、色や形、どんなフォントを使うか、すべてに意味がある。すみだモダンの商品だけでなく、パンフレットはもちろん、活動レポートやお知らせちらし一枚でも、このプロジェクトにかかわる印刷物だって、すみだモダンのイメージに合わせてデザインを熟慮するのが当たり前。そういうことも今まで役所ではあまり徹底されていなかったと思いますが、今では他の部署の人もすみだモダンのやり方を意識している……ような気がします(笑)」


 2010年から2018年の間にすみだモダンに選ばれた商品を見ると、金属加工ひとつとっても、伝統工芸に属するかんざしから防災・防犯用ホイッスルまで、幅広い商品が選ばれており、墨田区の企業の多彩さを感じさせる。皮加工品、ガラス工芸品、スイムウエア、石鹸、米や豆腐も認証されている。どれも美しい、便利、ほかで見たことがないなど、一目で「なるほど、さすが!」と思わせる、クオリティの高い商品ばかりだ。
 墨田区で作られる製品を、世界を知る人々の厳しい目で選定してきたことで、すみだモダンのブランド力も形成されてきた。
 「おかげさまでよその市区町村の方が視察にお見えになったりすることも増えています」
 というのも、さもありなん、である。

【2010-2018年までのブランド認証一部紹介】

ブランド認証商品(2010-2018)はこちら

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錺かんざし
products 030
力士ペーパーウエイト
products 033
すまいるスイムシリーズ
products 069
ガラスの硯
products 112
隅田屋米
products 078
防災・防犯用ホイッスル
products 036
Oeuf
products 055
銅製如雨露
products 125
栗羊羹

 「しかし10年たって『今までうまくいっているから、それを踏襲』ではなく、これをどう成長させていくかという話になったんです」

 すみだモダンの認証商品が増えていくのは良いことだが、目標は墨田区の産業を支えていくことであり、すみだモダンは単に墨田区産のいいものを紹介するお店屋さんではない。そこで2021年からのすみだモダンは、商品そのものではなく、すみだモダンの理念との合致度合いを基準に「活動」をブランド認証するという方向にかじを切った。

 カシミヤ製品を作る会社ならカシミヤヤギの飼育にかかわる労働や環境の改善を進めている、皮革加工会社なら多くの人に皮加工の魅力を伝えるためにワークショップを10年も続けているなど、時代が求めるSDGsにも通じる、墨田区で未来につながる活動を続ける企業をバックアップするという意味合いが加わった。

すみだモダンの4つの理念

「すみだモダン」の定義は
「ものづくりを通して、未来のスタンダードを創造し、人々の幸せを育む活動」です。

新理念は以下の4つとし、
この理念に合致する事業者の活動を「すみだモダン」と呼称します。

4つの理念

【2021年以降のブランド認証の一部紹介】

northpeace farm.001
northpeace farm(ノースピースファーム)
大関.001 1
大関鞄工房
③サクラワクス 1
SAKURAWAQS
久米繊維.001
久米繊維

 「事業を続けることを応援するという点では、コミュニティづくりにもより力を入れるようになりました。墨田区は今、町工場が三代目に代変わりするところが多く、時代変化が速い中で、今後どうこの仕事を続けていくか、心細く思っている事業者も大勢います。そうした人たちが異業種の人、世代の違う人たちと交流できる『すみだモダンコミュニティ』を作りました。これは墨田区在住や勤務の事業者に限らず、幅広い人が参加できるようにしたことが、大きな特徴です。墨田区以外の人が入ることで、『墨田区にはこんなものづくりができる人がいるのか』と知ってもらい、仕事の発注につながったり、ものづくりがしやすい墨田区への移転を検討してもらえたりというのも期待しています。専門家の方々にも講演していただくなど、事業者の勉強の場も設けています」


 全国各地で行われている地域振興・産業振興を目的とした認定プロジェクトの中で、すみだモダンがその名を知られる成功例となった理由はなんだろうか。

 「うーん、そんな風に言っていただけると嬉しいのですが……私たちの力というより、力を貸してくださる方のおかげだと思います。立ち上げ当初からかかわってくださった水野さんをはじめ、外部の方々がこのすみだモダンを一緒に育ててくださったこと。もちろん私たちも何もかもお任せではなく、素人だからわからないことがあればそれを全部疑問としてぶつけて、教えていただくうちに私たちもいろんな認識を新たにしてきました。私たちが道に迷ったときは相談に乗ってくださって、私たちが持つ疑問に惜しみなく答えてくださる、広い視野を持った方々と一緒に、ブランド作りができたというのが、すみだモダンの強みだと思います」

 最近では『すみだモダンにかかわりたくて』と区役所に就職してくる若手もいるという。地元の産業を伸ばしたいという、意欲的な職員が増えること。担当職員にとって、それは何よりも嬉しいという。


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すみだモダン

「モノづくりのまち すみだ」としての地域ブランドの価値を高めることを目指し2009年から取組スタート。

その後、2021年9月からは活動全体の名称を「すみだモダン」としてリニューアルし、「商品そのもの」だけではなく、そのバックグラウンドにある事業者の「活動」も含め、新しい産業プロモーションを推進しています。

「ものづくりを通して、未来のスタンダードを創造し、人々の幸せを育む活動」を定義とし、「持続可能性・共創性・独自性・多様性」の4つの理念を掲げ様々な事業を展開しています。


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