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2022.09.07

大石龍弥 × 渡邊睦  NEW ENERGY特別賞|受賞者対談【後編】

「若い才能を発見し、世に送り出す」の精神のもと、1956年に創設されたファッションコンテスト「装苑賞」。そのフィロソフィーに共感し、今年96回目を数える歴史あるファッションコンテストにて、【NEW ENERGY特別賞】が新設されました。去る6月に本特別賞を受賞した大石氏と、NEW ENERGYのコンセプター兼クリエイティブディレクターである渡邊睦との特別対談をお届けします。「ファッションには社会を変える力がある」そう語る渡邊が、栄えある第一回受賞者となった大石氏のENERGY(エナジー) に迫ります。*対談中、話者の敬称は省略させて頂きます。

創造のまち 広島から世界へ

渡邊)次に、今回NEW ENERGY賞を取った作品のコンセプトなどをお聞かせ下さい。

大石) デザインの構想を練る中で、とある工場のリサーチをしていたところ、広島市が推進するあるプロジェクトの存在を知りました。それは、原爆が投下された1945年から100年後の2045年に向かって「平和と創造のまち」をキーワードに、優れたデザインの社会資本を整備していくというものです。このプロジェクトの存在を知ったとき、正直驚きました。広島県人にもあまり認知されていないこのプロジェクトを、自分のデザインで体現したい、そういう思いで作品に挑みました。広島は「原爆が落ちた悲しい町」というだけではなく、「創造のまち」だという事を、間接的にでも感じてもらえるものを作りたい、そんな思いで始めたのが今回の作品です。

その後は、もともとミラノで働きたいと思っていたので、就職活動をしながら様々なチャレンジをする中で、色々な出会いもあり、何

渡邊)なるほど、そんな背景があったんだね。

大石) でも当初は「工場って綺麗だな」という単純な動機から始めました。私はその感覚をなるべく大事にしたいと思っています。私は、コンセプトが先行してしまうのは避けたいと思っていて、芽生えた感覚に理屈を重ねていく、そんなイメージで創作しています。この感覚を大事にしてデザインしたのが本作品です。

渡邊) 面白いですね。では、一番大変だったのってどの辺ですか?

大石) ほぼ生地作りです。 なるべくテクニックはロジカルにというか、シンプルな工程を選ばないと分かり難くなると考えています。「服っぽくない」と思われないよう、シンプルな構造かつ誰もがよく分かる素材で、どういうものを作るのか?という事に焦点をあてて制作しました。

主な材料はメッキフィルムにしました。「金属音がするような雰囲気」を作る為にこの素材を選び、メタリックな要素を表現しつつ、触ってみたら服だ、というものを作りたかったからです。

また、ランウェイスタイルのショーを意識した時、目を引く要素としてメッキテープも加えてみようと思いつきました。メッキテープは金属音がしそうな雰囲気なのに、穴を開ける作業が可能だ、じゃあこれにしよう、と。そこからデザインを服に落とし込んで行きました。しかし、ここにたどり着くまでが一番苦労したっていうか、考え込んだところです。

私はこれまで、製図に拘りがありカッティングに特化した服を手がけてきました。今回の「素材から作る」という発想はこれまではなく、やったことがなかった。今回テキスタイルに取り組んだのは、自分自身へのチャレンジでもあります。自分のクリエイションの進化も含めて、今回の作品は苦労した分、自身の可能性を広げてくれたと感じています。この自分自身の成長が大事で、コンテストに通らなくても自分が成長できると確信できるものにしっかり向き合い、取り組むことが大事だと思っています。

渡邊) 確かに、今回の作品はテキスタイルから発する「強さ」を感じました。なにか一つ突出したもの、違った感じがあるってすごく大事だと思います。この作品の緻密さを見ると、製作過程で心が折れそうになることもあったでしょ?

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アイデアのきっかけとなった工場
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今回受賞した作品のテキスタイル

考えるより、とにかく手を動かす

大石) 考えるよりもとにかく手を動かす。焦ることで思考が止まるので、とにかくポジティブに手を動かすことに集中するよう努めています。

渡邊) ストレスコントロールがうまそうですね。でもそれは訓練して備わってくるところもあるんじゃないかな?誰しも自己コントロールで苦労する場面ってありますよね?でも訓練されている人だと、「いざ!」という時に強い。ポジティブなマインドで挑むと、いつの間にか完成しているってこともあるしね(笑) 少し話は飛躍しますが、著名なデザイナーって必ずブレない芯の強さを持っていると感じます。こういう人たちは、強靭な精神を持っているんだろうな、と。この自己コントロール出来る強さが、彼らが持つ共通した強さの要因なのかも知れません。

大石) そうですね、イタリアを代表するVERSACEのドナテラ・ヴェルサーチェさん、お元気だなぁと思いました。 イタリア人はファッションを楽しむ文化が根付いているので、みんな年齢なんて関係ない、そんな様子を見ていると楽しそうで元気をもらうというか、そういう方々を目の当たりにして、本当に考え方が変わりましたね。自分自身がブレない事が大事で、その方が面白いなって思います。

渡邊) そうですよね、自身の意識次第かもしれないね。今、少し日本も変わってきたかもしれないけど。 あと、イタリアに行くと、日本ではどうだ?みたいな、日本人として社会的な意見を求められたり、日本の歴史観みたいことを聞かれたり。日本ではあまり展開されない形で会話が繰り広げられるよね?

大石) 日本のことなのに答えられないことはよくありました(笑)。なので、会話のあと、知識が足りないなと思って歴史を見直すっていう事をよくやっていました。

渡邊) 分かります。日本の教育は記憶に重きを置き過ぎて、感覚として身についてない。歴史の流れの中でその文脈を読み解いて学ぶ必要があるんじゃないかな。

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大石) 私はなるべく覚えた時に自分の哲学を入れて記憶するようにしています。そうすると忘れにくく、会話の中で急に振られた時に、自分の意見も交えて会話に入れるような感覚がありました。

渡邊) 大石さんのその考え方、やはり面白いね。今はファッションをやってるかもしれないけど、ファッション以外もやりそうな気配があるね。

大石) そうですか? 実は、最終的にはディレクターをやりたいと思っています。その通過点として、今はデザイナーを選んでいる、そんな感じがあります。

渡邊) ええ?そうなんだ!

大石) できればイタリアとかフランスブランドのどこかでディレクターをやりたいと思っています。 日本だと感覚が自分と違うかなと感じているので、海外に出たいです。感覚的なところの自由度が高いし、新しい形を作れるかなって思っています。

渡邊) なるほど、では日本を出ることを視野に活動しているんですね。クリエイティブのジャンルは?

大石) 基本的にはウィメンズウェアのクリエイティブディレクターです。できればオートクチュールの方にも行きたいなって思いますけど。今は地道に近づいていきたいという感覚です。まずは人間関係を作る事がそこに辿り着く近道で、その為に何かに特化した魅力ある人間力を付けていきたいという思いです。魅力という意味で、自分の強い哲学を持っていれば、浮き沈みの少ないクリエイターになるのではないかと思っています。これが自分なりの哲学です。

渡邊) 大石さんの話を聞いていると、クリエイティブディレクターのような複合的な職業に向いてるかもしれないと思いました。ディレクターは方程式があるようでない、化学変化をどんどん生んでいく仕事だと思っているのですが、その片鱗が見えてきます。

作品の奥が見たいと思っているし、作品の未来が見たい

渡邊) 今回の装苑賞は全体的に熱量が高かった気がします。その中で大石さんの作品を選んだ理由をお話します。 ニューエナジー賞を作ったのは、継続的にクリエイターをサポートし、クリエイターが活動を続けられる社会を共創していく為です。なので、選出するにあたり、作品だけなく、私は作品の奥が見たいと思っているし、この作品の未来が見たいと思っています。

私たちが開催するNEW ENERGYは、クリエイションの祭典と銘打っていますが、そこを実現させる為には、横の広がりがとても重要です。このコミュニティを形成する上で、ファッションは手段であって、それ以外にアートや様々なデザイン業界、建築、色々な要素が繋がって初めて成り立つもので、その色んな形で繋がっていくところをリデザインできるっていう人が欲しいと思っていました。

ファッションから世の中を変えていけるような人は誰かな?という感覚で見ていました。

最初に候補作品を見せていただいて、「この人かなぁ」って思ったのが大石さんで、実際にお会いして、確信に変わりました。 何となく、電波を発しているような感覚というか、繋がっているような感覚というのでしょうか。今もお話を聞かせていただいて益々それが強くなりました。

大石) 性質、精神的なものを見てもらえてたんですね。

渡邊) そうですね。何か芯がある。作品の背後にきちんと大石さんという確固とした軸が見えるような気がしたのかな。 作品的には今は少し粗削りで、完成形ではないかも知れないけど、完成していく姿が想像できる、そういった感覚がありました。なので、正直に言うと大石さんの作品が100点満点でした、という選考理由ではなく、「何かもっと言いたいことがありそうだ」と感じて、これからをもっと見ていたい、何か面白いことがありそうだ、という事を感じた作品だった、そしてそれが大石さん自身が放つ魅力だなと思っています。

大石) 今僕が考えていること、思っていることがそのまま伝わっているのが素直に嬉しいです。なかなか心の内を正確に理解してもらえた経験がないので、伝わっているのが本当に嬉しいです!

渡邊) うん、そうですね。伝わる人には伝わるのかな(笑)。 今日色々とお話をしてみて、やっぱり大石さんで良かったなって実感しました。 先ほど継続的にサポートしたいというような話をしましたが、それよりも継続的に追っかけていくという言い方の方がしっくりくるかも知れない。この出会いがあって、何年経っても変わらない関係性っていうスタンスがいいのかな、って思っています。大石さんがイタリアに行く事もあるでしょうし、NEW ENERGY自体も形を変えて進化していくでしょうし、でもその10年後に会ったとしても、この原点は同じで、また何か一緒にやろう、そんな流れが作れたら本望です。お互いがお互いの進むべき道を、大きく進化しながら歩いていたいですね。 これから追いかけさせていただきます(笑)、よろしくお願いします。

大石) ぜひよろしくお願いします


Profile

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渡邊睦 | NEW ENERGY コンセプター兼 クリエイティブディレクター

2002 年に渡仏し、帰国後に 合同展 rooms を設立。 2009 年「繊研賞」、2011 年「毎日ファッション大賞 内 鯨岡阿美子賞」を受賞。 2022 年に独立し、Blue Marble を旗揚げ。

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大石龍弥 | 第96回装苑賞 NEW ENERGY特別賞受賞

小井手学園小井手ファッションビューティ専門学校卒業後、渡伊。ISTITUTO MARANGONI MILANO卒業後、ミラノファッション協会サポートの元ミラノコレクションのオンスケジュールでコレクションデビュー。


「若い才能を発見し、世に送り出す」 それが装苑賞の精神です。 装苑賞は、昭和 31 年に、日本で初めてのファッション界の新人賞として創設されました。この賞は 戦後いち早く、デザインの重要性と、新人デザイナーの才能の芽を育てることの必要性を感じた先達の知恵から生まれました。その後 60 年以上の永きにわたり、多くの審査員の先生方の御協力を得て94 名の受賞者を世に送り出してまいりました。

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