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2023.11.20

香港のデザイン・アート・ファッションの今 - DesignInspire In Motion 2023 Tokyo Exhibition -

DesignInspireは、香港のダイナミックな文化と創造性を促進するため、香港貿易発展局(HKTDC)が主催する展示イベントです。ここでは、クリエイティブな領域で活動するデザイナー、ブランドが、グローバルにコネクトし、ビジョンや専門性を共有し、未来への継承、持続可能な事業として発展していく事の支援を目的としています。
尚、DesignInspire 2023 Tokyo Exhibition開催において、クリエイティブの祭典「NEW ENERGY」を運営するBlue Marbleが、オフィシャルサポーターとして参画しました。


(文:江間 亮子)

香港のデザイン・アート・ファッションの‘今’を紹介するポップアップイベント「DesignInspire In Motion 2023 Tokyo Exhibition」が、東京・表参道にて、2023年10月20日(金)〜29日(日)の期間で開催された。

東洋と西洋の文化が融合した国際都市・香港。そんな文化的背景のもと、独自の文化・芸術を、今なお醸成し続けている。本展では、「Design Through Heritage(デザインの源流を探る)」をテーマに、17組のアーティストによる作品群を通し、香港の今、そこで暮らす人々の息遣いを感じられる、そんなイベントとなった。

時代や環境の変化に翻弄されつつ、先人たちが築き上げてきた文化へのリスペクト、そして香港人としてのプライドを感じさせるものでもあった。

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本展は「Cityscape of Hong Kong-香港の街並み-」「(Re)Industrialisation-産業の再形成-」「Traditional and Future Crafts-伝統と未来の工芸-」の3つのチャプターで構成され、カリグラフィーから、ネオンサイン、都市デザイン、プロダクト、ファッションと、デザインに纏わる多様な分野のクリエイター17組が一堂に会した。

テーマは「Design Through Heritage」。Heritageは「遺産」と訳す事ができるが、香港の土地、そこに暮らす人々、多くの異文化との交流から生まれた独自の文化・芸術、そのオマージュとしても捉える事が出来る。その景観と暮らしは、クリエイターにとって大きなインスピレーション源となっている。

Chapter 1: Cityscape of Hong Kong -香港の街並み-

チャプター1では、原寸大のネオンサイン、建造物、遊び場の研究や、都市開発デザイナーが独自の視点で切り取った香港の街並みの写真集など、「香港の街を構成するもの」を通して、香港に暮らす人々の息遣い、生活スタイルを想像させるクリエイションが集められた。

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Fan Lok Yiの遊び場の歴史に関する研究をコミュニケーションボードを使って展示

本展を通じて印象的だったものの一つが、漢字のデザイン。香港の街を特徴づけるネオン看板、その一旦を担う‘漢字’は重要なエレメンツ。看板は文字のみでシンプルに構成されており、字体をデザイする(カリグラフィー・書体デザイン)文化が発展してきたのだろう。Adonian Chanは、この書体デザイン文化の継承と、今日のデザインへの影響などを探求する、若きクリエイターだ。

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Adonian ChanによるZansyu(真書)の展示

Adonian Chan(アドニアン・チャン)のデジタルサイネージを駆使したモダンなプレゼンテーション。中には、実物大のネオン看板の文字が設置され(左上)、文字を通して築いた文化の醸成を讃えているかのようだ。

Chapter 2: (Re)Industrialisation -産業の再形成-

チャプター2では、アーティストたちが、生活に根付いたプロダクトの再考、コミュニティ形成などの検証、再構成を通して、これまで香港にて発展した産業において、今後自分たちの担うべき役割を再考した作品やクリエイターが紹介された。伝統的な食や素材、かつての香港で日常的に使われていたプロダクトなどのデザインを通し、現代にフィットした自由な発想で、固有の産業をブラッシュアップする。香港における産業の未来を、過去から現在への繋がりの中から導き出している、そこが印象的なチャプターとなった。

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Kay Chanによる「塩魚」プロジェクトマップと開発された商品などの展示

魚が吊るされたオブジェに思わず目が留まる「Re:vive : Salted Fish(設計再生 : 塩魚)」の展示。プロダクトデザイナーでもあるKay Chan Wan Ki(ケイ・チャン・ワン・キー)が、デザインの力で伝統食の再考、再認識、を目的としたアクション。伝統食である「塩魚」の、新たな調理法や食品の開発など、若い世代への認知を促す取り組みだ。

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Studio Nousはネオン看板のデザイン原画を展示

Studio Nous(スタジオ・ヌース)の編集したビジュアルブック「Radiant Eateries: Hong Kong」と「Restaurant Neon Sign Drawings」は、1950〜1970年代にかけて作られたネオンサインの原画をまとめ「昼の顔」と「夜の顔」の2部作として刊行。都市の景観保持や安全性の問題から10年ほど前より法による規制が進み、減少の一途を辿るネオン看板。この本は、失われつつある香港の文化を再考し、これらを再評価するためのガイドブックの位置づけで発行したもの。

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迫力のある、Kinyan Laの「Fabricraft」

この作品は中国南方の少数民族であるトン族の染色と仕上げの技術を再考し、取り入れたもの。染色の原料に漢方薬を使用、染め上げた生地をハンマーで叩いて、箔のような光沢を出している。若干22歳のデザイナーKinyan Lam(キンヤン・ラム)による、まさに伝統とクリエイティブの融合を体現した作品。

Chapter 3: Traditional and Future Crafts -伝統と未来の工芸-

チャプター3では、伝統工芸の再考と、未来への継承がテーマ。香港人の持つ「古き良き時代」を、工芸やプロダクトを通して再考、継承していくことを目指す、そんなクリエイター6組が選出された。

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@streetsignhkのネオン管を使ったアート作品

もともと、繁華街に設置される事の多いネオン看板の色使いは、青地にオレンジ、黄色地に赤など、個性的で目に鮮やかなのが特徴。ネオン管はガラス製のチューブの中に化学物質を挿入し、発色・発光させている。その為、発色可能な色が限られおり、ネオン看板の特有の色彩表現が生まれた。

2010年に施行された新しい建築規制により、街を彩るネオン看板は減少の一途を辿っている。香港が誇る都市文化の一つとして存在するネオン看板、その消滅を危惧し、@streetsignhk(@ストリートサイン エイチケイ)は、撤去されるネオン看板を回収、保存、復元する活動を行っている。

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YanYanの伝統柄や中国服のディティールを取り入れたコレクション

Suzzie ChungとNYの人気ブランドrag & boneの元ディレクターPhyllis Chanの二人組で立ち上げたニットブランド「YanYan(ヤン ヤン)」。日本でも人気の高い、香港発のハイセンスでハイクオリティなブランドだ。ブランド名の「YanYan」は中国語で「人人」を意味し、広東語では「みんな」という意味を持つ。ここでは、サプライチェーンの見直し、アップサイクルの素材開発など、ファッション業界が抱える社会的問題の解決にも積極的に取り組んでいる。ブランドのモットーは “ Proudly knitted in China ” 。

キュレーターは「本展で紹介したような、若い世代のクリエイターやデザイナーが、香港の文化や伝統、工芸といったものを、遺産、財産として引き継ぎ、また次の世代へと継承し続ける事を願っている」と語る。

デザインを通して、香港の独自の文化を知る機会を得、文化の継承と創出にかけるクリエイターたちのエナジーに触れた、そんな10日間だった。

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江間.001
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