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2024.06.20

おしゃれで可愛い、でもどこか怖い? KAIHOの世界

文:湊屋一子 

 可愛いと思っていたものが、何かの拍子に不気味に見えてドキリとすることがある。例えばぬいぐるみやイラスト、無邪気なかわいさの奥に何か別のものが隠れていて、それが一瞬見えたような……そんなとき、ぞっとすると同時にその奥深さに惹かれるのではないか。一時期もてはやされた「キモかわいい」という言葉は、そんな気持ちをわかりやすく表している。


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 KAIHOさんは、カラフルで愛くるしく、でもどこか生々しくて怖い、クリーチャーとフェアリーの要素を併せ持つ世界観が人気の、特殊メイクを主軸とするアーティストだ。

 「特殊メイクというと『ゾンビとか作れるの?』って言われますね」と、KAIHOさんは苦笑する。たしかに特殊メイクのニーズが高いのはゾンビ。それだけゾンビが映画やゲームなどで市民権を得ているということでもあるのだが、KAIHOさんが特殊メイクで創りたいのは、そうしたわかりやすく怖いものではない。


 「インスピレーションの元は花が多いです。花が好きで、花を見ているといろんなイメージがわいてきて、それをデザイン画に起こして、立体にしていく、そういう感じで作品を創っています」

 子どものころから空想上の生き物を描いたり、目に見えない世界を空想したりするのが好きだったというKAIHOさん。専門学校で特殊メイクの技術を学び、卒業後はアルバイトをしながら、作品をインスタグラムで発表し続けた。

 転機になったのはKing GnuのチームがMVに使う特殊メイクの依頼を受けたこと。そこからじわじわと大きな仕事が入るようになり、仕事の幅も広がっていった。

 「きゃりーぱみゅぱみゅさんとは、最初ダンサーさんの被り物を創る仕事をいただいて、それから武道館でのライブステージのデザインも担当することになりました。もちろんステージのデザインなんてやってことがないし、安全面のことも予算もわからない。そんな自分が担当して大丈夫なのかと。でも本人から『デザイン画とか見てて、面白いからやってみて!』と言われて、じゃあ……と引き受けました」

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Photo:AkiIshii
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KAIHOさんのデザイン画
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Photo:AkiIshii

 KAIHOさんの特殊メイクの技術の高さもさることながら、人々が惹かれるのは特殊メイクで表現される、彼独特な世界観であり、その美しさ、面白さは特殊メイクという表現の枠を超えて「もっと見たい」「その世界で遊びたい」と、アーティストたちを魅了する。

 「ライブステージのデザインなんて、自分が『やれる』と想像もしてなかった仕事。でもとにかくやってみて、自分はこういうこともやっていけるんだと、新しい世界が開けたと感じました」

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 特殊メイクはゾンビに代表されるような、クリーチャーなどグロテスクなイメージが先行しているが、KAIHOさんにとっての特殊メイクはもっと“何でもできちゃう技術”なのだ。

 「仕事で依頼されるものは、やはりクリーチャーが多いけれど、もっと面白い、自由な世界が作れるのが特殊メイク。いま自分が作っているような、ちょっとしたアイディアから見たことのないものを創れる技術なんです」

 KAIHOさんは、普段から意識的にインスピレーションになりそうなものをインプットするように心がけているという。

 「さっきも言ったように、花が好き。あとは映画や絵画、いろんなものを見るようにしています。でも見たものがすぐに作品になるのではなく、とりあえず引き出しに入れておく感じです。作品を創るときにそれを使ってはいるんですが、もともとどこから得たインスピレーションかは忘れちゃってますね。元ネタがわかるって『○○っぽい』ってことじゃないですか。それはすごくイヤだから、もう自分でも何がもとになっているかわからないくらいがちょうどいいんです」

 作品を創っていると、ついついのめり込んで時間を忘れるのはよくあること。しかし同時にちょっと離れて時間をおくのも大事だと考えている。

 「作品を創る際、わりとスルスル出てくる方だと思います。デザイン画を描く段階ですごく考えるんですが、テンション乗って描いてても、一気に集中してやるんじゃなくて、一回手を止めてコーヒーでも飲もうって、落ち着くようにしています。一回突き放すことで客観的に観られる。そのあとの実際創っていく工程でも、客観的に観るというのは大事にしています。どうしてもとことんやりたくなっちゃうんですよ。でも足し引きをどこまでするかはすごく重要で、足せば足すほどよくなるかというと、やりすぎは色物になっちゃう。引くかっこよさもある。そこを見極めるためにも、一回落ち着くのは大事ですね」


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 今年は舞台「ジョジョの奇妙な冒険」に、特殊メイクで参加。また新たなジャンルへの挑戦となった。

 「映像と違って、舞台は最前列の人にも、2階席や最後列の人にもわかるような表現が必要。でも自分が呼ばれたのは『ここに傷があります』みたいな表現が求められているわけじゃないと思って、どういう表現で行こうか、いろいろ考えました。仕事はテーマがあって、その人がやりたい世界観を受け取って、自分がデザインを描く。頼んでくれた人の想像の斜め上をいく、サプライズを感じるようなものを出したいんです。そしてそれを立体にするときには、デザイン画を120%超えるものを出したい」


 専門学校時代の後輩たちから『どうやったら特殊メイクの仕事につけますか?』と訊かれることもあるという。

 「うーん、自分は運がよかった部分もすごくあると思ってて。まずSNSがあって作品を多くの人に見てもらうツールがあるっていうのはすごく大きいですよね。学校出た後はアルバイトして、その収入から最低限ぎりぎりの生活費を抜いて、あとは全部作品作りとか撮影のために使ってました。作品として完成したものとか、メディアに出たものとかって、その一部でしかないんです。『ちょっとバカじゃないとできないんじゃない?』って動きもしてるから、あんまり自分のやってきたことって、参考にならないと思う(笑)」

 仕事を増やすために人脈作りなどはしなかったのだろうか?

 「何回か、異業種交流会みたいなのに行ったこともあるんですけど、ここにいて呑んでる時間あったら作品作りたいなと思っちゃって、すぐやめちゃいました。なんか、会いたい人とは、ちゃんといい仕事してたら会えるんじゃないかと思ってて。実際そうなってるし、人脈作るよりいい作品作る方が、望んでいるようになれると実感してます」

 現在の悩みは仕事の規模の拡張に合わせて、スタッフを増やさなくてはならないこと。

 「ずっと全部自分でやってきたので、人に仕事を振り分けるのがすごく下手なんです。でも人に仕事を振れないと、自分が作品を創る時間が減る! 特に今、書類を書いたりする事務仕事が本当につらくて、はやく人に任せられるようになりたいです(笑)」

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KAIHO / 快歩

特殊メイク、グラフィック、アートディレクション等、独自の世界観を追求した作品制作を行い、その感性を活かして、ミュージックビデオや映画、ライブなど様々なメディアにおいて幅広く活動する。特殊メイクのグロテスクなイメージをあえて制限し、色を効果的に使うことで、ポップかつリアルな独自の世界観を表現している。
KingGnu、Vaundy、Official髭男dism、きゃりーぱみゅぱみゅ、yama、ALI、藤井風などのアーティストの特殊メイク、マスク、造形物などを提供する。
オーストラリアで開催された特殊メイクのコンペティションWBF2020WorldChampionships special effects makeupにおいて、世界TOP3に選出。
ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』では、特殊メイクとして参加。

@kaiho10

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