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360°に収まらない5°を描く、正円から伸びる螺旋の曼陀羅
2023年9月開催のNEW ENREGY TOKYO(ニューエナジー トーキョー)。本会期のキーワードは「365°」だ。ああ、円の……ん? そう、円は360°。365で周回するものといえば一年である。めぐり続ける年月、巡り続ける円。一年365日、季節は巡るというのを、ゼスチャーで表すとき、人は円を描くものではないだろうか。だがその円を成す数字と年月を成す数字の間には5のずれ?がある。その5を円に入れ込んだとき、円は円でなくなるのだろうか?
NEW ENERGYコンセプター兼 クリエイティブディレクターの渡邊睦は、その5°に夢を見ている。
「ニューエナジーは、コロナ禍の昨年9月展のキーワードは「マーブル」、多様な価値観、人が交差して、未来への希望という結晶になるという思いを込めた。今年2月展は「エコー」、自分の中での考えが内省で深くなる、それが外へと広がっていくというキーワードを立てていました。そして今回は「365°」。地球という球体の一周、円は360°ですが、一年かけてその360°を一周するのに、365日かかる。この5のずれってなんだろう? そこに余力のようなものがあるんじゃないか? もしかしたらまだ見つかってない秘境が隠れているんじゃないか? そんな空想を広げていったら、そこにまだ誰も知らない可能性や未来があるんじゃないか、という気がしてきたんです」
むろん360°の円にあと5°詰め込むことが可能なわけではない。それをすれば円は円でなくなるだろう。
「そこで円が不完全なものになるかもしれない。でも完全なものはもうそこから先はないけれど、不完全なものには可能性がある。収まりきらないエネルギーを感じますよね」 その渡邊のイメージを、一目で伝えるのがアーティスト・上田真央香のメインビジュアルだ。
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「渡邊さんからこのイメージの話を聞いた時、正円を一周まわってその先へ伸びていく線を想像しました。秘境のイメージもしっくりくる説明で……。私はもともと正円からはみ出したところを描いていたので、このコンセプトで私の作品を選んでいただけたのが、すごくうれしかったです」
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今回のビジュアルは、黄金比でつながっていくキャラクターたちの曼陀羅。たくさんのキャラクターが詰まっているのではなく、一つのキャラクターとほかのキャラクターを分ける線だと思っていたものが、別のキャラクターの一部を構成する線だったり、さらに大きなキャラクターの一部だったりと、個を主張するキャラクターの集合体でありながら、そのキャラクターたちが融合しているという、不思議な作品である。
「私は作品を作る際、線画を描いて、中心線から螺旋のように広げていくんです。それは自然界の黄金比の渦巻きをイメージして描いています。私に見えている線をつなげてつなげて、それが何か個性を持ったキャラクターのようなものに見えてくる瞬間があって、そこからまた線を伸ばしていって……という風に描いているので、完成形が自分でわかっているわけではないのです。でも描いていると、すべての線が見えてくる。その線を描き写す、降りてくるものを追いながらデッサンしていく、という感じ」
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降りてくるものとは何か?
大学生のころ、大好きなロンドンでグラフィックを学んでいた上田は、疲労から不眠になやまされるようになっていった。その時、眼前に現れたのは見えるはずのない曼荼羅模様のような柄だったという。
「最初は怖くて怖くて、そのイメージから逃れたかった。でもユング心理学を学ぶ知人から『不眠の治療と思って、そのイメージを実際に描いてみたら?』と勧められて、思いきって描き始めたんです。そうしてイメージを絵に落とし込んでいくうちに、だんだん怖いと思っていたそのイメージが、見ようによっては愛嬌のある生き物のように見えるようになってきて、そうしたら少しずつ、イメージの中にポジティブなものが出てきて、見えている柄と幾何学的なキャラクターに共通する法則があるように感じて」
自分にしか見えない、自分の意図ではないイメージ。恐れていたそれに、描くことで形を与えてやると、生き生きと何ごとかを表現し始めた。
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黄金比の渦巻きをつなげて描かれるアートと、360°におさまらない5°の探求。自分を癒すために始めた絵だが、渡邊は上田の絵に、見る人を優しい気持ちにする、心にハッピーな波を起こす力を感じている。
「真央香さんの絵は、自分を癒すところから始まって、さらに見る人を癒す、優しく包むという、自己の経験を拡大化しているところが、5°の広がりに通じていると思いました。一周終わって最初に戻るのではなく、その先にブレイクスルーみたいな、何かが起こっていくんじゃないか?という気がするんです。そして見る人によっていろんな見方ができる、多様な視点を受け入れる奥深さがある。正円から5°の進化をずっと続けていける、ブレイクスルーしていく人たちのイメージとも本質的な部分で重なっていると感じます」
上田の作品には、上田自身が正位置と思っている角度があるが、おそらく見る人は首を傾けて、別の角度から見てみたくなるはず。現に、そうして違う角度から見た人が新たな発見をし、それが時には作り手である上田自身も気づかなかったものであることに驚かされるという。
「どの見方が正解というのはなくて、その人がその時見る角度、その時見つけるものがあっていいと思っています。今回のビジュアルもぜひいろんな角度から見て、自分が『ここ、好きだな』というところを見つけてもらえたら嬉しいです」
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多種多様なクリエイターが集まり、クリエイションを楽しむ人が集まり、一つの空間を作り上げるニューエナジーというイベント。キャラクターがつながりながら輪が広がっていき、完全体を成すのではなく、はみ出しながらさらに開けていく。上田のメインビジュアルは、そうした未来を、見るものに感じさせてくれる。
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Maoka Ueda
Artist
ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズのFoundation course、チェルシー・カレッジ・オブ・アーツのGraphic Design and Communication 学科にて、5年間ロンドンでアート&デザインを学ぶ。
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渡邊 睦
NEW ENERGY コンセプター兼 クリエイティブディレクター
2002 年に渡仏し、帰国後に 合同展 rooms を設立。 2009 年「繊研賞」、2011 年「毎日ファッション大賞 内 鯨岡阿美子賞」を受賞。 2022 年に独立し、Blue Marble を旗揚げ。
■NEW ENREGY TOKYO 開催概要
イベント名:「NEW ENERGY TOKYO」
スケジュール:2023年9月7日(木) 8日(金) 9日(土) 10(日)
9月7日(木) 10:00 – 18:00 BUSINESS DAY
9月8日(金) 10:00 – 17:00 BUSINESS DAY
17:00 – 20:00 NIGHT MARKET
9月9日(土) 11:00 – 18:00 MARKET DAY
9月10日(日) 11:00 – 17:00 MARKET DAY
入場料: 業界関係者 事前来場登録必須
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一般公開日(MARKET DAY)来場チケット
7月下旬からチケット販売予定
会場:新宿住友ビル三角広場 MAP
住所:〒160-0023 東京都新宿区西新宿2丁目6−1
アクセス:”都庁前駅”直結、”新宿駅”徒歩7分
特設サイト:https://new-energy.ooo/03/