グラフィックが動くことでみる人の心が動く、Motion Graphicsとは
今や、ネットで動画を見ない日はない。
何かのアドレスをクリックして、トップページが動画なんてごく普通のことだ。
だが一昔前は「動画で始まるとデータが重すぎてパソコンがフリーズするから嫌われる」と敬遠されたし、もう一昔前はそもそも動画自体がネット上では稀有な存在だった。
だからこそ、グラフィックが動いてイメージを伝える「Motion Graphics(モーショングラフィックス)」が登場したことは、クリエイションにおいて大きなエポックメーキングな出来事だったのだ。
DRAWING AND MANUALのクリエイター・川島真美は、学生時代に平面でのグラフィックデザインを学んでいた。
「映像の授業でリリックビデオを見て、面白いなと思ったんです。当時、リリックビデオは海外のアーティストがよく作っていて、それを見るようになって、自分で作ったグラフィックを動かしてみたら、もっと表現の幅が広がる、面白くなると思って。そこからモーショングラフィックスの世界に入っていきました」
モーショングラフィックスとはそもそも何か?これは1996年に話がさかのぼる。
当時フリーランスのクリエイターだった菱川勢一が、ISSEY MIYAKE青山店の壁に、ISSEY MIYAKEのロゴを3DCGを用いて動かし、24時間投影するインスタレーションを発表。それを目にしたグラフィックデザイナーのナガオカケンメイが菱川に声をかけ、映像とグラフィックデザインの新しい表現について語り合ううちに、「グラフィックデザインと映像の融合=Motion Graphics(モーショングラフィックス)」という定義が誕生した。
そして二人はDRAWING AND MANUALを創設。以来、ロゴを動かす、マンガの擬音を動かすなど、今まで動かなかった表現を映像として動かすモーショングラフィックスの展覧会を開催し、自分たちが生み出した「モーショングラフィックス」という新しい創作の世界を牽引してきたのだ。
川島はモーショングラフィックスの会社を経て、DRAWING AND MANUALに参加。
「この会社には私のようにグラフィックを動かす人だけでなく、実写メインの人など違うジャンルの人もいて、すごく刺激的ですね。以前の会社はチームで物を作るというスタイルで、それはそれですごくよかったんですが、だんだんポジションが上がっていく中で、自分はもっと自分自身の個を強くしたい、という気持ちが生まれて来て。チームの一員として作品を作るだけじゃなく、ディレクションももっとやってみたいと思って、DRAWING AND MANUALに来たんです」
転職してきたばかりのころは「私はこういうことができる」というのを見せるために、自主制作の作品作りもしていたという川島。しかし今は「目の前にある仕事」がすべてだという。
「たぶん私は自分の思いを形にする、というよりも、『誰かの思い』を形にすることが好きなんだと思います。クライアントとの打ち合わせは、先方が明確なイメージや素材も持っていることもありますが、時にはまだあいまいな、どう伝えていいのかわからないイメージしかないというときも。そうした時、やっぱり大事なのはとにかく聞くこと。クライアントと一緒に迷いながら、道を探していくこともありますし、私のほうで先に何か作って見せてしまうこともあります。どちらにしろ、丁寧に話を聞き、小さなヒントを拾っていく。大事なのは『何のためにそれを作るのか』で、それがはっきりすれば大丈夫。それをかわいく見せるか、かっこよく見せるか、それはどんな風にもできるので、芯の部分をしっかり共有することですね」
現在はグラフィックだけでなく、実写やアニメーションも使った映像表現を行っている川島。その作品制作の過程はその案件によって異なる。
「絵コンテを描くこともありますが、クライアントにイメージビジュアルを見せるだけで、制作に入ることもあります。動きは言葉にして説明しにくいので、『こういう絵になります』という部分を説明して納得していただいて、動きはお任せで、というのが多いですね」
ちなみにブルーマーブルのブランドコンセプト・ムービーも制作している川島。
「あの作品は、もう一気に一分の動画を作ってお見せしました。抽象的な動きでコンテにしづらくて、実際に動いているのを見ていただいたほうが伝わると思って」
今まで動かなかったものが動くことで、伝えたいことが伝わるときのインパクトは大きく変わった。
「自分が作ったキャラクターを動かすのは本当に楽しい。ただ、人は何かを見ると『○○に似ている』とカテゴリーにいれて見がちなので、すでにあるいろんなキャラクターの『〇〇に似ている』にならないように、というのは気を使います。
そしてそれを『どう動かすか』をちゃんと考えないといけない。ゆっくり動くのと早く動くのとでは、伝わるものが全く違います。なぜそう動くのか、そう動くことで何を表現したいのか。ある意味どんな風にも動かせるからこそ、漫然と動かすのではなく、その動きでどんな風に心が動くのか、どんな感動が生まれるかを考えていかなければと思います」
DRAWING AND MANUALは、6月17日開催のMotion Plus Design(https://motion-plus-design.com)にスポンサーとして参加。川島が手掛けたブルーマーブルの映像も掲載された、モーショングラフィックスを特集したオリジナルのZineを配布した。
「こうした祭典に積極的に参加するのは、やはりDRAWING AND MANUALを始めた菱川とナガオカが、自分たちが定義したモーショングラフィックスを産業として応援していこうという気持ちが、すごくあるんだと思います。私自身も、自分の作品が多くの人に見てもらえるというのもうれしいですが、やはりモーショングラフィックスそのものが、もっと盛んになって面白い作品がどんどん生まれるのが見たいです」
自分はちょっと野心が薄いほうかも、と笑う川島。
「例えば『あのブランドの仕事をしてみたい』というような欲もあまりないですし、いつか独立して自分で起業してというのも、今のところ自分の性に合わないと感じています。それよりももっとシンプルに『川島に頼みたい』という人が増えるのが嬉しいんです。今はモーショングラフィックスやれる人も増えてきて、その中で『川島に』って選ばれる人になりたい」
自分のやりたい方向性にあった仕事がしやすい環境も、お互いの仕事に率直に感想を言い合える社風も気に入っている。
「ここに転職するとき『個をもっと強くしたい』と思っていたし、その点ではもっともっと強くしていきたい。でもクリエイター同士がバラバラに働いているという感じはなくて、会社全体がチームという感じもすごく好きです。ここにいたら『停滞する』というなんてことは、ずっとないんだろうな(笑)」
仕事に煮詰まったときは実際に手を動かして作業がしたくなる。「そういう時は野菜のみじん切りをすることが多いです。餃子作ったりしてます。包丁を動かして単純作業をしていると、なんか気分が変わるんですね」
もう一つの気分転換はウクレレ。
「まだまだ初心者なんですけど、家に帰ってウクレレを弾くのが最近のブームです。会社には絶対持ってきません! 弾いてみろって言われたら恥ずかしいから」
今後、自分の作品に自演でウクレレの音を合わせるなんてことは?
「あっ、それいいかもしれませんね、アナログな音を合わせるのはいいかも!」
MAMI KAWASHIMA 川島 真美
Motion graphic designer / Director / Art director
https://www.mamikawashima.com/
1994年 東京生まれ。EDP graphic works Co.,Ltd.を経て、DRAWING AND MANUALに参加。グラフィック・CIデザインをはじめ、抽象的なブランディング映像からキャラクターを動かすアニメーションまで様々な表現方法を用いる。
Born in Tokyo.After working at EDP graphic works Co., Ltd., joined DRAWING AND MANUAL.She works on motion graphics, live-action, animation and multiple methods.
AWARD
[ Graphis Design Annual 2022 ] Gold Award
[ Graphis Design Annual 2023 ] Silver Award
[ 映像作家100人 2022 ] 選出
[ 映像作家100人 2023 ] 選出
DRAWING AND MANUALのオリジナルZine “The Motion Graphics”の取り寄せをご希望される方は、rep@drawingandmanual.info(担当:広報・小林)までお問い合わせください。