EMERGING – 新出現のクリエイター求む – 合格者Kaori Millineryインタビュー
EMERGINGは、創造を続けるために支援が必要な方、また飛躍に向け挑戦されたい方に向けて、クリエイターの発掘・育成をサポートするインキュベーションプロジェクトです。通常よりも厳格なオーディションを通過した合格者は、英国仕込みの高いデザイン性と技術力をビスポークによるオーダーメイドの世界で研鑽したクチュールミリナー(帽子デザイナー・職人)による帽子・ヘッドウェアブランド「Kaori Millinery」です。
*EMERGINGプロジェクトの支援内容は、NEW ENERGY9月展のブース無償提供+広報支援+営業支援を中心に、双方の協議により決定しております。
1)将来像をお聞かせください。
これまで通りお客様お一人お一人に向き合ったオーダーの帽子を作りつつ、例えばファッションショーのヘッドウェア、映画や舞台の衣装、アーティストの作品における帽子・ヘッドウェアのコラボレーションなど、頭まわりにまつわる面白そうなことは何でもやっていきたいです。
ロンドン修業時代、「ミリナーは頭まわりのものは何でも作れなければいけない」と教えられました。そして「何でも作れるための技術」は今でも磨き続けているつもりです。ファッションのみならず、様々なクリエイティブな分野で、「何かもうひとアクセント欲しいね、頭まわり何かいけるかな?Kaoriさん呼んでみようか」と思っていただけるようなクリエイターになりたいです。
2) NEW ENERGYを何で知りましたか?エマージングに応募したきっかけをはじめ、最終的に今回出展を決めた経緯・目的をお聞かせください。
今年の3月、とある合同展示会に出展していた際に、ご来場されていたNEW ENERGY関係者の方に「新たにスタートした展示会」としてご紹介いただいたのが知ったきっかけで、すぐにInstagramをフォローしました。予算の都合上、今秋は展示会への参加は見送ろうかと考えていたのですが、Instagramでエマージングの参加者募集の投稿を見て、出展料などを支援してもらえることを知り、応募しました。
最終的に出展を決めた理由は三つあります。
一つは、面談でNEW ENERGYクリエイティブディレクターの渡邊様とお話をさせていただいたのですが、NEW ENERGYという展示会のスタンスなどのお話を伺いながら、純粋にワクワクしたからです。
二つ目は、帽子・ヘッドウェアは比較的ニッチなフィールドなので、トレンドアイテム(最近でいうとバケットハットやキャップ、日除け目的の帽子など)以外は、合同展に参加してもスルーされがちです。プロモーションを主催者側からバックアップしていただけるなら、トレンドアイテムに留まらず、帽子・ヘッドウェアに幅広く関心を持って見ていただける機会になるのではという期待があります。
それから、「来場者は小売りに留まらず、感度の高い方が多くいらっしゃる」と伺いました。たいていの合同展示会はBtoBの商談を目的としたものですが、Kaori Millineryの帽子はそこで求められている「売りやすい商品」ではない自覚があります。「買い付けて売る」というお仕事を一旦横に置いておいてもらったとして、Kaori Millineryの帽子・ヘッドウェアが、感度の高い方々にどのように見ていただけるのか知りたいという好奇心が出展を決めた三つ目の理由です。
3) 今回の展示内容についてご説明ください。
今回の展示は、夏目漱石の短編小説『夢十夜』の「第一夜」を題材としています。
まず前提として、Kaori Millineryは使用する資材にかなりこだわっていて、基本的には「できるだけ、いずれは土に還るもの」を選ぶようにしています。これは帽子作りにおいて「理にかなっている」という理由と、いくつかの「風景の記憶」に基づいています。
その「風景の記憶」の中でも特に強烈なインパクトなのが、子供の頃、山の中で土に還ろうとしている動物の屍を見つけた時のものです。見つけた瞬間はギョッとしましたが、物質と生命の循環について学校の授業で学んだ頃だったので、「こういうことか」と理解しました。理解すると同時に、子供ながらに、生命の活動を終えた物質の潔さと、全てを取り込んでいく大地の底知れなさのようなものを感じたのを覚えています。
この時の感覚を形にしたくて制作したのが今回の展示の中心に置いてあるフードガウンで、デザインするにあたり、題材として浮かんだのがこの小説でした。
登場人物はひと組の男女。百年後必ず会いに来るから待っていてくれと言って死んだ女を土に埋め、その前でひたすら登って落ちる太陽を数えながら待ち続ける男の前に、女が百合の花となって現れるという話です。
男が待っている間、男の目の前で起きた変化は太陽の上り・下りと、土の上に置いた墓標に苔が生えただけです。その表現として、フードガウンの表地は苔のようなベルベットを使用し、共布の蔦を這わせました。表面の変化は苔や蔦だけだとしても、土の中では死んだ女が土に還り百合の花として生えてくるまで、女の体や虫や微生物など、生命の循環がドラマチックにあっただろうという見解を、ガウンの内側を華やかにすることで表現しています。
フードガウンというアイテムを採用した経緯は、この物語の根底にあるものが男女の愛だとした時に、まずヘッドウェアデザイナーとして、花嫁衣装の角隠しをモチーフとして取り上げました。そこから、モチーフと表現したいことの両方を成立させられる形として、角隠しから打ち掛けに繋がるようなスタイルのフードガウンへと落とし込みました。
展示ブースは表・裏の2面構成になっています。SOUTH AREAに入ってすぐ目に入る白い面が<昼>、裏側が黒い<夜>の面です。
<昼>の面では、中央に先述のフードガウンを、そして女が百合の花になるまでに必要な時間の経過を表現した「百年分の太陽」として、いろいろな素材・様々なキャラクターの赤い帽子を壁一面に展示します。
<夜>の面では、小説の世界観を感じてもらえるように、小説の抜粋を紹介すると共に、太陽と百合の花に次ぐキーワードである「星の破片」をモチーフとした黒い帽子群を展示します。
4) 今回の出展を通して、来場者に伝えたいことを教えてください。
月並みな表現ですが、帽子・ヘッドウェアの楽しさを伝えたいです。
「興味はあるけど、自分はどんな帽子が似合うのか分からない」とか「自分は帽子が似合わない」と思っている日本人はとても多いです。でも“どんな帽子も似合わない人”はいません。市場に出回っている帽子には形のバリエーションが少なく、似合わないと感じられるのは、その形がお顔の形や体格とのバランスに合っていない(またはサイズが合っていない)場合がほとんどです。似合う帽子の形が分かって、ファッションアイテムとして使いこなせるようになると、お洒落の幅はぐっと広がります。今回の展示にはちょっと変わった形のものが多いですが、帽子にはいろんなバリエーションがあること、その中には必ず似合う形があることを知っていただき、帽子に興味を持っていただけるきっかけになれると嬉しいです。
それと、私のところにオーダーにいらっしゃるお客様に、度々「海外の映画やドラマでは素敵な帽子がたくさん出てくるけど、日本ではああいうの難しいのかしら」と言われます。もしかしたら、今回の展示の中に、皆様の頭の中の「海外ドラマの帽子」もあるかもしれません。展示している帽子はご試着いただけますので、ぜひ色々頭に乗せて楽しんでいただければと思います。
【 デザイナープロフィール 】
サロン・ド・シャポー学院(東京)で帽子作りの基礎を学んだ後、ロンドンにて世界的なトップミリナーの一人であり伝統的な総手縫いによる制作手法を継承する数少ない帽子デザイナー 兼職人プルーデンスのもと3年をかけクチュールミリナー技術を習得。ヴィヴィアン・ウェストウッド(ゴールドレーベル・パリコレクション)でヘッドウェア製作アシスタントを務めると同時に、独自の活動としてイングリッシュナショナルオペラ等への舞台衣装のヘッドウェア製作にも従事。その後、クチュールミリナーとは異質となるマスプロデュースの帽子作りを知るため、ウィーンのミュールバウアー社で研修を行う。
2014年ミュールバウアー社での研修終了と同時にKaori Millineryとして独立し、LFWのFashion Scout (SS15)におけるコラボレーションとしてKeiko Nishiyamaのランウェイショーに参加。現在は東京を拠点に、クチュールミリナーとマスプロデュース両方の技術を活かしたビスポーク(オーダーメイド)ハットの職人及びヘッドウェアデザイナーとして活動中。
【 ブランドプロフィール 】
Kaori Millineryは、イギリスで修行を積んだデザイナーが2014年よりビスポークでの帽子・ヘッドアクセサリーの受注・制作をメインに展開しているヘッドウェアブランド。
ビスポークにおけるカウンセリングを通して、お客様お一人お一人の、お顔や体格とのバランス、ファッション及びライフスタイル、お悩みやTPOに向き合い、イギリス仕込みの高いデザイン力を以ってヘッドウェアを提供してきました。その技術力と被り心地には定評があり、リピーターは年間オーダー数の7割にも登る。
BtoCでの年間のべ100〜150名のお客様と向き合った経験と知識を活かし、2021年よりBtoBでのReady-to-wear及び店舗様向けビスポークサービスをスタートさせた。
2021年より、このBtoBサービスの入口となり、ブランドのクオリティやスタンス・アティチュードを表現するものとしてコレクションを発表している。