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2023.02.09

Tsuki PROD. × 渡邊睦 スペシャル対談【NEW ENERGY TOKYO 「ECHO」に託した思い】

 

NEW ENERGY TOKYO-ECHO-の2月開催を控え、コンセプトを体現するキービジュアルを担当したTsuki PROD. 氏を、本展のコンセプター兼クリエイティブディレクターを担う渡邊が深堀。次世代を担う新進クリエイターの脳内を探り、NEW ENERGY TOKYO「ECHO」に託した思いを語り合う。

※以下対談中、話者の敬称は省略させて頂きます。


渡邊)まずはTsukiくんが創作活動をするようになったきっかけや、今に至る経緯を聞かせてくれますか?

Tsuki)思い返せば、学生時代から絵を描くことや、マインクラフト(ゲーム)などで手を動かす事が好きでした。17歳の頃出会った「メタルギアストリット」や「ディスティニー」などのゲームは、アート性の高い世界観を作り出していて、プレーヤーとして関わりながら、そのクリエイティビティに魅了されました。その後大きな分岐点となったのは、建築の専門学校に入った事だったと思います。そこで総合芸術としての建築に携わり、課題に向き合う中、ルールの多い設計よりも、CGでの建築デザイン、特に光彩感覚の高さを評価してもらった事が印象に残っています。

その後、自分でもなぜその選択に至ったのかは謎ですが、プラント(配管)設計の会社に入社し、クリエイションから離れた環境に身を置くこととなりました。しかし、働き始めて数か月した頃、突如社会に疑問を持ちはじめたんです。それに加え「自分の表現したい事を何も出来ていない」そんな焦りも入り混じるようになり、様々な要因はありましたが、いつの間にかうつ病になり、その時の僕は命を絶つことまで考えるようになっていました。

この感情の渦の中にいた20歳後半の頃、かつて没頭したゲームの世界観などを追いかけるように、パソコンと向かい合い、コラージュアートの創作に没頭していくようになります。次第に「今この瞬間の心情を記録として残しておきたい」、ただそれだけを考えて創作に打ち込むようになっていきました。それが、部屋に閉じこもり、寝る事や食べる事も忘れて、クリエイションに没頭する2年間の始まりです。

自分の心情を記録として留める事が僕のクリエイションの原点です。今ここに生きて生まれ出た感情は、今が一番新鮮で鮮明に表現することができる、そう確信し、取り付かれたように創作を続けました。世間的には引きこもりの状態で、ただただ創作に没頭した2年間でした。

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渡邊) その2年間の引きこもりのような生活から、何をきっかけに外に出よう、ってなったのかな?

Tsuki)散歩です。うつの症状を緩和してくれたのが、自分にとっては散歩で、すごく良かったんです。引きこもりの2年間とは言いましたが、後半は創作と散歩を繰り返す生活に変化していました。近所を散歩して、日常の些細な光景や景色を見ていると、自分の抱えてる負の感情などを忘れさせてくれたんです。新たな発見もあるし、少しずつ外に意識が向くようになりました。そんな中、自分の作品を「世に出してみよう」と思い始め、2021年の11月にツイッターを始めました。本格的にクリエイションを始めて1年半が過ぎた頃ですね。その頃ようやく「人さまに見せられる作品が出来た」と、自分の作品を客観的に評価できるようになったんだと思います。

その後、ツイッター上で色々な交流が出来るようになり、コミュニティーが広がっていく実感がありました。結果、2021年12月に初めて仕事の依頼を頂き、今に至るという感じです。なんだか、人生を語っちゃいました(笑)

どんな自分であろうと大事に扱う

渡邊)そうね、人生だと思う。そこが出てこないと、作品としての影響力みたいなものは生まれないんじゃないかな。どんな自分であろうと大事に扱って、作品に転換することができるかどうかが、表現者、アーティストとしての要になるような気がする。私も実は20歳過ぎたぐらいの時に、引きこもりのような期間が一年間くらいありました。当時、引きこもりという言葉もなかったけど(笑)。

そんな生活が一年を過ぎた頃、お世話になっていた人からの強引な誘いで友人たちの集まりに連れ出され、ある人に「若い時って、そういうことあるよね」って、さらっと言われたんだよね。私はその言葉が衝撃で「えっ、よくあることなの?!」って、そこで自分の中の何かが覚醒し、次の日から仕事を始めてました(笑)。

Tsuki)分かります!その感覚。ダメな自分を含めて客観視できるようになる感じ。

渡邊)それまでは、世間の評価とか何かに怯えていたのかも知れないけど、自分を客観視することで、ネガティブな自分を自分自身が受け入れられるようになる、というか。

Tsuki)その客観的なアンテナが張れている感覚が、クリエイションをしていく上で、僕はとても大事な気がしています。

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日々の感情を鮮明に記録したい

渡邊) うん、大事だよね。ではこの辺りで、今回作成頂いたメインビジュアルについて、話を移しましょうか?

Tsuki)はい、ではまずECHOで発表する作品の基盤になっているシリーズ「インヘリット=継承」についてお話します。先ほど話したように、19歳から22歳後半までの約2年間は、自分にとっては数十年分の苦痛を味わったように感じる期間でした。同時に僕のクリエイションのオリジンでもあります。ここで生まれた日々の感情を、鮮明に記録に残し、作品としてブラッシュアップさせたのが「インヘリット」です。「インヘリット」は、人間の頭脳がどういう構造を形成して生きてきたのかをアートに転換し、後世に伝える事をテーマにしたものです。「自分がそこに存在した」とか「こんな経験をしていた」という事を残す事が目的なんです。だから僕は、NFTアートという手段を選択しました。現段階のデジタル技術においては、確実に作品を残すことができ、自分が作った作品である事を証明できる唯一の手段です。僕の場合は売り買いよりも、そこが最大のメリットだと思っています。あと、自分が死んだらどうなるのか?がめちゃめちゃ気になっていて(笑)。基本的には死んだら無になると言われていますが、もしも後世で生まれ変わった時に、過去の自分が残した作品だったら、自分の魂は自身の何かを感じとるんじゃないか?という事を想像しているので、今この瞬間の感情を表現する作品が残したいんです。

それから、西暦3500年を想定した作品があるんですが、この作品を西暦3500年に実際自分の目で確かめたい、そんな野望も抱いています。具体的には、僕が死ぬ直前に瞬間冷凍して西暦3500年まで保存してもらい、その時世界がどう自分の作品を評価するか、それを自分の目で確かめたいんです。本気でそのストーリーを想像することが、自分にとっての生きる原動力であり、絶好のチューニングなんです。

0からの1を創造する、ということ

渡邊)やっぱり面白い!壮大なストーリーを背景にしてTsukiくんのクリエイションは生まれてるんだね。ところで、Tsukiは「月=MOON」を擬えた名前だよね?何か由来はあるの?

Tsuki)はい、MOONの月です。少し話は逸れますが、僕のプロフィールとして「いま展開されたアートすべては、私が経験した事のリノベーションです」という説明をしているんですが、その理由としては、自分たちの世代は0から1の創作は出来ないと思っているからなんです。僕がどっかで見た1コマの0.01秒の瞬間が脳裏に残り、そこから何かを生み出していく、つまり0.01からの1を生み出すイメージです。そう考えると、自分は一人では輝けない、だれかの何かの光を浴びてこそ輝ける、そう感じています。なので、太陽の光を浴びて輝く「月」にシンパシーを感じTsukiと名付けました。僕は一人では輝けないんです。今もそう、今回ECHOというコンセプトをもらって、更に渡邊さんから発する光を受け取り、作品に転換させる。その作品は、また別の何かを照らしていく、それを僕は届けたい、そんなイメージです。余談ですが、「月がきれいですね」という表現はあるけど、「太陽がきれいですね」とは言わないですよね、なんでなんでしょう…。太陽の光で月は輝けるのに、太陽は褒められない。太陽は月に嫉妬したりしないのかな…(笑)

渡邊)面白い発想だね。そんなTsukiくんに、ぜひ皆既日食を見て欲しいな。私が最初に皆既月食をみたのは、1995年の10月だったと記憶します。その太陽、月、地球とが織りなす壮大なショーを見た衝撃は、今でも忘れられない。自分の頭上一面に広がる夜空で、月の影が走る様子を見ていると、この圧倒的な宇宙の中に私は立っているんだ、そんな実感が押し寄せてきました。その時、人間の人生が80年だとすると、「何をやってもいいんだよ」って言われているような感覚に陥り、「そうだ、人生をかけて遊んでみよう」と思うようになったんだよね。この感覚と覚悟が、自分の個性を生むルーツになっているような気がするな。だからTsukiくんにも、そのオリジナリティーを思う存分発揮して、創作活動を続けて欲しい、そう願わずにはいられない。

Tsuki)普通に生きていると、観測可能な宇宙の広さって考えないですよね。その境地に至るというか、その実態に直面しないと分からない事が多いんじゃないか、って思います。僕の場合は、一回落ちるところまで落ちて、そこで見えて来たものが大きいようにも感じます。ところで、どうして渡邊さんは今回のプロジェクトに僕を呼んでくれたんですか?

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数億年後の世界を想像できる自分を信じて

渡邊)前回9月のNEW ENERGY会期中、ある方に作品と一緒にTsukiくんを紹介され、一瞬にして惹かれた。何かが見えた、という感覚かな。プロフィール的な情報からではなく、作品から発するものを、ただ純粋に受け取った、そんな感覚だった。私も、長くイベントのクリエイティブディレクターをやってきて、次のフェーズを思い描いてNEW ENEGRYを始めたんですが、どこか自分的に振り切れてない感覚を抱いたのかも知れない。その矢先のTsukiくんとの出会い。「あっ、これが欲しかった!」という感情が一瞬にして押し寄せてきたんだよね。これで次に行ける!と。

Tsuki)僕からのECHOを感じて取ってくれたんですね(笑)

渡邊) そうだね、ECHOだね。このシンパシーみたいなモノを感じる事を「エコってる!」って二人で言いあってるよね(笑)。

Tsuki)今回、作品を作る過程で、渡邊さんとのコミュニケーションのラリーが本当に気持ちよかったです。快感でした(笑)。渡邊さんが、ピュアに作品を見てくれているな、って事が伝わってきて、それが気持ちよくて、楽しい!!頭でなく、根本で理解してくれているという感覚に「マジ?!」って思いました。

今回キービジュアルを創る上で大事にしたのは「ECHO(共鳴)」で、エコーはそもそも、音の振動が何かにぶつかってシンプルに反響するものなので、自分が手を動かしていく過程で、いつも出て来るテクニック等の不必要な感情を入れたくなかった。なので、創作作業に入る前、頭の中で考えて、考えて、考えて、手を動かし始めた時には一気に仕上げる事に拘りました。シンプルに受け取ったものを形にしたかった、という思いです。本作は直観を表現した結果、出来上がった作品です。

渡邊)なるほど、そんな制作秘話があったんだね。実はこれまで、デジタルで作られた作品をみて、少し「肌になじまない感覚」を抱いていたんだよね。でも、Tsukiくんの作品には、なぜかそれがない。逆に、肌になじむな、という感覚。今日改めてお話を聞いて、その謎が解けました。込められたストーリーがきちんと作品に投影されていて、柔らかな質感みたいなものすら感じる。もはや作品ではなくTsukiくん本人、もしくはその一部なんだね。

Tsuki)僕は僕の一番の信者でありたいし、数億年後の世界を想像できる自分を信じていたい。だから自ら出てくるものに嘘をつかないで、今を記録し続けたい、そう思っています。

渡邊)次のNEW ENERGYをTsukiくんと一緒に作れていることに、今本当にワクワクしてる。このECHOは、大きな共鳴となりそうだね!楽しみです。この出会いに感謝しています。


Profile

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渡邊睦 | NEW ENERGY コンセプター兼 クリエイティブディレクター

2002 年に渡仏し、帰国後に 合同展 rooms を設立。 2009 年「繊研賞」、2011 年「毎日ファッション大賞 内 鯨岡阿美子賞」を受賞。 2022 年に独立し、Blue Marble を旗揚げ。

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Tsuki PROD. | アーティスト グラフィックデザイナー

「いま、展開されるすべてのアートは私が経験したすべてのリノベーションです。」建築の設計学科を卒業し、その知恵を生かした建設的で総合的なアートコンセプトを作ることを得意とする。地球外の次元を展開させたコンセプトや、生命体の感情、その生命体の生きる意味や死ぬことの意味などをコンセプトに創作活動を行う。


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