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2023.12.20

親しい友人の部屋のように居心地の良い空間にちりばめられた美しい東洋の工芸品 ーライフスタイルショップ「TARA」ー

― DESTINATION STORE ―

空間、セレクト、店主との会話。すべてが魅力的な体験になる、そんな旅の目的地にしたいショップをインタビューやコラムなどさまざまな形でご紹介します。


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(取材、文:湊屋 一子)

 銀座松屋の裏手、茶席用の花を商う店の隣のビルに、その店はある。時代を感じさせるビルの階段を上る。3階が「TARA」。クリエイティブディレクター・土村真美さんのお城だ。

 白を基調にした店内には、インドやネパールのアーティストが作るジュエリーをメインに、土村さんの目で選び出した、暮らしを彩る国内外の美しいもの、ストールや帽子、インテリア小物などが並んでいる。猫好きの土村さんらしく、猫の香炉などがさりげなく飾られている。

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 土村さんとインドとの出会いを紐解くと、生まれ故郷の金沢から物語は始まる。酒屋育ちの父と和菓子屋育ちの母のもとに生まれた土村さんは、地元の大学で心理学を専攻し、大学院まで行った。

 「公務員になろうと思っていたんです。両親も私にずっと地元にいてほしいと願っていましたし。でもこんな風に金沢から一歩も出たことがない、狭い世界しか知らないで、心理学を学んだとはいえ、さまざまな人の深い話を聞ける人間になれるだろうか?という不安があって……。大学院生時代に、町屋を改装した、昼はカフェで夜はバーとなるお店ができて、そこでバイトをしていたんです。そこは大阪からグラフのチームが来て内装を手掛けたり、東京からミュージシャンが来たりする店で、そこでいろんな人に出会ったことで、金沢から出てみたい、一度東京に行きたいと思うようになりました」

 ファッションが好きだった土村さんは、上京してH.P.FRANCEに入社。件の金沢の店で店長をしていた経験を買われて、ラフォーレ原宿に出店したばかりのH.P.FRANCE初の和に特化したブランド「水金地火木土天冥海」に配属になる。

 「当時、禅が世界的ブームになりかけていて、水金地火木土天冥海は、社長(※H.P.FRANCE創業者の村松孝尚さん)がニューヨークに出店したブランドなんです。でも縁あって原宿、それもラフォーレにも出店することになった。私が入った頃は年配のバイヤーさんが見つけてきた、有田焼の豆皿とか猪口などが並んでたんですけど、ラフォーレの客層に合わなくて、売れないんです。そのころ盆栽ブームが来始めていたので、その猪口に苔を入れてみたら売れた。バイヤーさんには怒られましたが、社長には面白がられて……。それから少し経ってバイヤーさんが辞めた時に、バイヤーに抜擢されました」

 その後水金地火木土天冥海は、まだあまり知られていないが実力派の日本のアーティストの作品を扱う、独自の目を持った店として成長していく。今や世界的に人気の美術作家となった深堀隆介の作品をいち早く扱うなど、水金地火木土天冥海が見出す目は確かだった。

 水金地火木土天冥海は、その後ラフォーレから表参道の路面店に移り、土村さんのバイイングで店のカラーがコントロールできる状態になる。土村さんは店頭に置く点数を絞り、作家性をより感じさせる展示や、催事の打ち方も変えていく。そのあえてミニマムを選んだ店づくりが功を奏し、和を感じさせるがドメスティックになりすぎない、洗練された店として水金地火木土天冥海は独自の路線を歩んでいった。

 だがある時から、水金地火木土天冥海の品ぞろえが日本から離れはじめ、東洋、特にインドやネパールのアーティスト作品を置くようになり、特にジュエリーは和ではなくインドの色合いが濃くなっていく。それはバイヤーである土村さんの目が日本の先、というよりルーツをたどる旅を始めたからだった。

 「社長としてはずっと日本、ジャポニズムをやってほしかったのですが、金沢生まれ金沢育ちの私にとって、日本の伝統工芸はあまりに身近すぎて、新しさやワクワクを探しにくくなっていたんです。では私がいいと思う和とはなんだろう?と考えて、さかのぼっていくと正倉院、シルクロード……で、とうとうインドまで行っちゃったんですね」

 土村さんは自分の休暇を使ってインドに行き、買い付けてきたものを店頭に出した。長年、水金地火木土天冥海で接客もしてきた経験から、顧客の好みはわかっている。感度の高い顧客たちが「今まで持ってなかった」「新しい」「身に着けてみたい」と、ワクワクするものを。東京の景色の中で素敵に映る、東洋を感じさせるジュエリーは、徐々にファンを増やしていった。

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Minakusi
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Indra Man Sunuwar

 ところでインドのジュエリーとはどんなものなのか?

 「インドのジュエリーと言われて、多くの人はアジアン雑貨のお店にあるようなものを思い浮かべるのではないかと。でもインドにはとんでもなくリッチな、それこそ大理石のお城で暮らしていたマハラジャたちが使う、飛び切り贅沢な工芸品がいろいろあるんです。ジュエリーもその一つで、とくに女性にとってジュエリーはファッションというよりも、むしろ身に着ける財産。何かのお祝いや記念日には必ずジュエリーを買います。そうしたニーズに応えるため、多くのジュエリー屋さん、職人さんがインドにはいるんです」

 そうした文化の中で培われてきたインドのジュエリー技術を、土村さんがコントロールすることで、インドのスピリットやルーツを感じさせつつ、東京の女性たちに似合うデザインに落とし込んでいく。ゴージャスでありながらシック、本物の貴石と金を使ったジュエリーは、身に着ける人に確かなものの価値と自信を感じさせてくれる。金沢で生まれた土村さんが、東京の原宿、表参道での経験を通して、東洋のものづくりにコミットしていくという、思ってもみなかったところに着地したのだ。

 水金地火木土天冥海がクローズした際も、H.P.FRANCEで土村さんが手掛けた東洋のジュエリーブランドJaipur Jewelry by Masamiは残ることになった。年に数回展示販売催事や受注会イベントを開催しようと考えていた土村さんだったが、たまたま紹介された銀座のビルを見て「ここにお店を出そう」と決めてしまった。それが「TARA Salon」だ。

 「知人との雑談で『ゆくゆくはお店も出したいな……』なんて話したら、すぐに『いい場所があるよ!』と言われて、見に行ってみたら古いビルだけどすごく気持ちのいい空間だったので、どうせ事務所は必要だし、だったらここを事務所兼ショップにしてしまおうと。お金のこととか何も考えてなかったんで、後から『ヒイッ!』ってこともありましたが(笑)、自分一人でやるとなると、一人で出来る方法を考えるようになりました。週4日お店をあけて、残りの3日でほかのことをやる。無理なく働くペースも、長くお店を続けるために大事なことですから」

 週に4日しか店を開けないだけでなく、開店時間中ずっと立っているという販売スタッフの基本ルールもやめた。

 「ここはリラックスした空間にしたいんです。お客様と一緒にお茶を飲んだりおしゃべりをしたりしながら、ゆっくり商品を見ていただいて、このサロンに来ることを楽しんでいただきたくて」

 水金地火木土天冥海時代からの顧客が、TARAにも来てくれる。TARAの接客スタイルにしてからおしゃべりが弾んで、今まであまり知らなかったプライベートな話も聴くようになってきた。

 「そうするとまた『この方にはこういう作品をお見せしたい』というのがもっと浮かんできて、それがお客様に選ばれたときは本当にうれしいです。TARA Salonは、自分の家にお客様をお招きしているみたいな気持ち。お店ではなくてサロン。自分のお城。休日もTARAに来るぐらい、ここが居心地よくて好きなんです。あとはうちの猫がここにいたら、もう最高!ていうくらい(笑)」

 一人でバイイングから接客まで行うので、当然バイイングの期間は店を閉めるが、この接客スタイルが今の正解だと実感しているので不安はない。

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 最近嬉しかったのは、インドのアーティストに土村さんがプロデュースするジュエリーが欲しいと言われたこと。

 「その女性は日本の折り紙にインスパイアされたアート作品を作っている方ですけど、インドの女性にとってジュエリーはファッションではなく財産、と言いましたが、そういう考えがごく当たり前であるインドの女性に、インドのジュエリーの良さである本物の素材と高い技術はそのままとはいえ、ファッションを考えて日本的なアレンジを加えた、私のジュエリーを身に着けたいと思ってもらえた、というのはすごくうれしかった。日本の女性に選ばれるのとはまた違った嬉しさがありますね」

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 インドと付き合い始めて20年近い年月が経ち、自分がインドの何を面白いと思うかも変わってきたが、インドの女性たちの変化も感じる。

 「私はインドの古いものが面白いと思って、その中から素敵なものを見つけてきた、というところから始まっています。当時は日本のほうがファッションもデザインも新しいものがたくさんあったけれど、今はインドもどんどん進んできて、魅力的なドメスティックブランドも台頭してきた。やがては世界観も変わってくるでしょう。インドの女性たちが財産になるジュエリーを親に買ってもらうのではなく、自分で自由に仕事をして働く女性が増えて、自分のために自分でジュエリーを買う女性も増えている。そういう女性たちに私の提案するジュエリーが選ばれるようになったら、また新しい展開があって面白いですよね。日本人女性は自立している。自立して自分の足で毎日踏ん張って立っている。そんな自立した女性がインドにも増えてきていて、私はそんな女性たちをジュエリーの力で輝かせたいし、応援したいんです。」

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TARA Salon
土村 真美

猫狂い、旅を愛するバイヤー
Jaipur Jewelry by Masami ジュエリーデザイナー

@masamichara
@tara.tokyo
@jaipur_jewelry_bymasa

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